ピーチ

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ピーチ

「僕にとって日織(ひおり)さんは桃の香りというイメージです。ほら、初めてのキスのとき、日織さん、ピーチサワーを飲んでいらしたでしょう?」  下着姿の私の腰に腕を回されたまま、修太郎(しゅうたろう)さんがクスクスと笑っていらっしゃる。 「言わないでくださいっ。恥ずかしい……です」  あの日の醜態を思いだすと、今でも顔から火が出そうになる。  先ほどソファで押し倒されて、ブラウスとスカートを脱がされてしまった。  修太郎さんも上を全てお脱ぎになられたので、てっきりそこでそのまま……なのかな?と身体を固くしたら、そっと抱き上げられてベッドに運ばれてしまった。  結果、今の私はこんな薄布姿でマットに座っている……。  修太郎さんも上半身裸なことを考えると、一人だけ露出が多くて恥ずかしいです、とも言えなくて、私は基本(うつむ)いて押し黙っている。 「僕はあの日の貴女が忘れられません。やっと、僕のもとにキミが落ちてきてくれた日ですから」  うっとり(つぶや)かれると、 「まさか貴女から僕を王子様に例えて頂けるとは思いもしませんでした」  そこで修太郎さんは私の剥き出しの肩に口づけを落とされる。 「あ……っ」  不意打ちに、思わず声が出てしまって、私は慌てて口元を押さえた。 「姫君様、僕は貴女の王子様でい続けられていますか?」  問いかけられた言葉は恥ずかしいほどに乙女チックな内容だったけれど、修太郎さんのお声は至極(しごく)真剣で。  私は視線を落としたまま、それでもはっきりと「はい、もちろんです」と(うなず)いていた。 「ホッとしました」  おっしゃって、修太郎さんは私の肩に小さく(あざ)が残るように吸い付いていらっしゃる。  チクリとした甘やかな痛みに、私は思わず「んっ」と声を出して反応してしまった。
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