ピーチ

2/3
前へ
/481ページ
次へ
 修太郎(しゅうたろう)さんはベッドサイドに置かれたサイドテーブルの引き出しから、ピンク色のチューブを手に取られると、(ふた)を回し開けて中身をご自身の(てのひら)にほんの少しお出しになる。  瞬間、ふわりと漂った瑞々しくスイートな香りに、私は思わず心奪われた。 「桃……?」  修太郎さんの手から漂う、甘く(とろ)けるような香り。  その芳香に誘われるように視線を修太郎さんの手元へ上向けた。でも次の瞬間、それがつい今し方、修太郎さんとの会話に出た桃の香りだと気付いたら、不意に恥ずかしくなってしまう。ぶわりと身体が熱を帯びて、頬や耳に(しゅ)がさしたのが分かった。  修太郎さんは私のそんな反応を楽しまれるように、手に取られた白いクリームを見せつけながら、私の肩から指先へ向かって塗り込まれる。  そうしながら、 「アロマリゾートのボディミルクです。ハッピースウィートピーチの香りといって、南ヨーロッパではお菓子やリキュールにも使われている、ヴィンヤードピーチのフレッシュな香りを閉じ込めたボディーケアアイテムだそうです」  ボディクリームに添付されていたと(おぼ)しき説明書きを暗唱なさると、修太郎さんはにっこり微笑まれた。
/481ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2869人が本棚に入れています
本棚に追加