ピーチ

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日織(ひおり)さんの腕、クリームを()り込んだところから、食べてしまいたくなるような、美味しそうな香りがします」  甘いピーチの香りに包まれるそのクリームは、香りが良いだけではなく、塗った箇所をスベスベさせる効果もあって。桃好きの私にとってはとても魅力的なアイテムだった。  私の、クリームを塗り込めた腕に鼻を押し当てるようにして香りを吸い込まれると、修太郎(しゅうたろう)さんは私の首筋にかかる髪の毛をお避けになられた。  あらわになったそこへもクリームをすり込んでいらして。 「やはり日織さんにぴったりです。お風呂上がりに、僕が全身に塗って差し上げますね」  髪をのけられたことで、首筋に修太郎さんの吐息が直接掛かって、くすぐったいようなゾクリとした快感が背中を突き抜ける。 「やっ、修……太郎さん、それ、くすぐったい、ですっ」  言えば、「気持ちいい、の間違いでしょう?」  意地悪く言われて、首筋にガブリと噛みつかれた。 「本当、食べてしまいたくなります」  修太郎さんのうっとりしたようなお声を聞きながら、私は今から起こることに思いを()せて、ドキドキに包まれる。  修太郎さんの大人の色気を感じさせるシプレ系の香りと、私が身に(まと)わされた甘い桃の香り。  ふたつが溶け合ったらどんな香りになるんだろう?と考えたら、頭の芯が未知の刺激にソワソワとざわめくのを感じた。 「私……桃の香りより修太郎さんの香りに包まれたいです」  半ば浮かされたようにそう呟けば、「奇遇ですね、僕もその逆のことを思っていました」と微笑まれた。  私は桃の香りに包まれた修太郎さんを想像して、(たま)らなく恥ずかしくなってしまう。  相手を自分の香りに染め上げるのって、なんて蠱惑的(こわくてき)な行為なんだろう……。  私は今塗られたばかりのクリームを擦り寄せるように、修太郎さんの剥き出しの上半身にそっと身体を寄せた。   END(2019/11/15-2019/11/17)
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