磨りガラス越しの会話

2/3
前へ
/481ページ
次へ
***  何故なのでしょう! 今日もタイミングが合わなかったのですっ!  湯船に口元まで浸かって、怒ったカニみたいにブクブクと泡を吐き出しながら、私は懸命に敗因を模索します。  だって、今日こそはって思っていたのです。  それで、わざわざお家からお気に入りの桃の香りのボディソープや、シャンプー、コンディショナーを持参して……。  なのになんで! 私はその香りに包まれているのでしょう! 「修太郎(しゅうたろう)さんはおバカさんなのです……」  水の中、ブクブク混じりにつぶやいたら、脱衣所から声がかかりました。 「日織(ひおり)さん、何かおっしゃいましたか?」  それと同時に磨りガラスに修太郎さんのシルエットが映って、私はお湯の中でパシャリと飛び跳ねました。 「ひゃっ。な、何でもないのですっ。お、お気になさらないでくださいっ」  言ってはみたものの、今にも扉が開くのではないかというドキドキに、視線が薄らぼんやりとした修太郎さんの人影から外せなくて。  何度肌を重ねても、私はやっぱり彼とお風呂というハードルは未だ越えられずにいます。
/481ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2870人が本棚に入れています
本棚に追加