磨りガラス越しの会話

3/3
前へ
/481ページ
次へ
「お湯が熱すぎたりぬるすぎたりしたらおっしゃってくださいね? すぐに調節しますので」  そんなことはどうでもいいので早くあっちに行っていただきたいのですっ。  修太郎(しゅうたろう)さんが脱衣所にいらっしゃると思うと、私、湯船から立ち上がることも出来ないのです。  このままでは茹で上がってしまいますっ。 「わ、わかりました……のでっ。り、リビングで……待っていていただきたいのですっ」  グルグルする頭で一生懸命言葉を紡いだら、ガラス越し、クスッと笑う声がしました。 「いつになったら僕の奥さんは一緒にお風呂に入ってくださるんでしょうね?」 「お、お風呂は明るすぎるから無理ですっ。てっ、停電になったら考えます、のでっ……今は……見逃してくださっ……」  今にも扉が開くのではないかと言うドキドキに、私は言葉半ばでお湯の中に顔半分までもぐりました。  でも修太郎さんは基本的には聞き分けのいい大人の男性なので、私の嫌がることはそうそうなさいません。  今回も「湯あたりしないように気をつけてくださいね」と、まるで私のいまの状態なんてお見通しだと言わんばかりのお言葉を残してお風呂の前から離れてくださいました。  もっ……、もしかして浴室(ここ)、隠しカメラとかで監視なさってるわけじゃないです、よね?  何で私の行動、まるっとお見通しなんですか?  ソワソワしながらお湯の中、キョロキョロと周りを見回してみましたが、そんなものありそうになくて。  当たり前……ですよね。  今更すみずみまで知り尽くした(わたし)の裸を盗撮したって仕方ないですし。  そもそもここ、普段は修太郎さんのおひとり住まいですもの。  そんなに苦労してご自身の裸をよそから見えるようにして、どうなさるというのでしょう!  私の方こそおバカさんなのです。
/481ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2870人が本棚に入れています
本棚に追加