ズレているふたり

1/9
前へ
/481ページ
次へ

ズレているふたり

 ホカホカと湯気が立ち上りそうなくらい熱々になった身体を、お気に入りのサテン素材の薄桃色のパジャマで包んで、リビングへ向かいます。 「修太郎(しゅうたろう)さん?」  恐る恐るリビングの扉を開けでお声をかけると、黒のスウェット姿の修太郎さんが、読んでいらした文庫本から視線を上げて私を見つめていらっしゃって。  眼鏡を掛けて本を読んでおられる修太郎さんは、職場で作業服を着て書類に目を通していらした彼を彷彿(ほうふつ)とさせて、思わずドキドキと胸が高鳴ってしまいますっ。  そういえばオフィスでの彼を見られなくなって、何ヶ月が過ぎたのかしら。 「あの……」  戸口に立ったまま修太郎さんを見つめて躊躇(ためら)いがちに口を開きます。 「いま、修太郎さんのいらっしゃる係には臨職(りんしょく)さん……みたいな方っていらしてますか?」  私が修太郎さんと一緒に働かせていただいた時とは制度が変わって、非正規雇用の職員のことを臨時職員とは言わなくなったのだと教えてくださったのはいつのことだったでしょう。  忘れているわけではないのですけれど、では臨職さんを何という名前で呼んでいらしたのかと考えると思い出せなくて……。思わず「臨職さんみたいな」と稚拙な言葉で誤魔化してしまったことがにわかに恥ずかしくなりました。
/481ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2870人が本棚に入れています
本棚に追加