ズレているふたり

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「ほら、さっきの。うちの係に配属になっている会計年度の方」  修太郎(しゅうたろう)さんは、言わなくても私の質問を覚えてくださっていたみたいです。 「男性……」  小さく吐き出すようにつぶやいたら……「女性だったら妬いてくださいましたか?」と私の耳元にかかる髪の毛をかき分けて耳たぶにそっと触れながら、修太郎さんがそうおっしゃって。 「ひゃっ」  私は思わず触られた耳に手を当てて真っ赤になります。なまじ目の前に鏡があるから、自分が赤くなっていることを突きつけられて、余計に恥ずかしくなってしまって。 「だっ、男性でも……妬けちゃいますっ。……修太郎さんとお仕事ができるの、とってもとってもうらやましいのですっ」  それで慌ててしまったんだと思います。  前を向いたまま、胸前でモジモジと手を組み合わせながら、私は思わずそんな本音を言ってしまいました。  以前なら私がいた場所に、誰か他の(かた)がいらっしゃるんだと思うと、それだけでお相手の性別度外視でモヤモヤしてしまうとか――。  了見の狭い奥さんで申し訳ないのですっ。  言ったあと、そんなことを思って後悔しかけた私を、修太郎さんがギュッと後ろから抱きしめていらして。  その力強い腕に、心臓が恥ずかしいぐらいに暴れまわっているのを感じます。きっと修太郎さんにもこれ、バレてしまっているに違いないのですっ。  めっ、めちゃくちゃ恥ずかしいのですっ。
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