どんなのがお好きですか?

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どんなのがお好きですか?

修太郎(しゅうたろう)さん、今年のバレンタインデーは金曜日なの、ご存知ですか?」  いきなり可愛い彼女――いや、実際には妻なのですが――からそんなことを言われて、僕はきょとんとさせられる。  スマホを取り出してカレンダーを確認すると、日織(ひおり)さんのおっしゃったとおり、二月十四日は金曜日だった。  お昼休みの束の間の時間、彼女と一緒に僕の車の後部シートに並んで座っておしゃべりをする。  それだけのことがどうしてこんなに幸せなんだろう。 「あの……それで……お仕事のあとになると思うんですけど……いつもより少し長めにお時間をいただけませんか?」  僕が何と答えるのか不安で堪らないのがありありと窺える、ゆらゆらと揺れる瞳で僕を見つめてくるその表情が可愛くて、僕は思わず微笑んでしまう。  夏に入籍はすませたものの、結婚式を挙げるまでは同棲は認めない、と先方のご両親に釘を刺されていて、未だに僕たちは一緒に暮らせていない。  なあなあで一人娘の花嫁姿を見せてもらえなくなるのは許せない、というあちらのお気持ちも痛いほど分かるし、僕も実際あちこちから強引に入籍を済ませたことを(とが)められたりしたので、多分に負い目もある。もちろん、自分勝手で性急だったと反省もしている。  だから結婚式は日織さんの意向を目一杯汲んだ形で執り行おう、と心に決めているのだ。  日織さんの花嫁姿を見たい願望自体は、僕が誰よりも強いと自認しているし、それを見ないなんていう選択肢はあり得ないんですけどね。
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