どんなのがお好きですか?

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 半年間一緒に過ごした職場も、彼女の臨時職員としての任期満了にともなって、今は離れ離れだ。  日織(ひおり)さんは、現在花嫁修行をなさっていて、働きには出ておられない。  かわりに、毎日「花嫁修行の一環(その一環)として作りました」という名目で、お弁当を作って僕に会いに来てくださる。  おかげで妻の顔を見ない日はないのだけれど、圧倒的に日織さんロスだと感じてしまう程度には、僕は仕事中に彼女を近くに感じることに慣れすぎてしまっていたらしい。  そんな中、金曜日のイベントごとを日織さんから提案された僕は、思わず前のめりになってしまった。 「でしたらいっそのこと、久しぶりにうちへ泊まりにいらっしゃいませんか?」  法の上では夫婦だけれど、前述のような諸々(もろもろ)の事情のせいで、なかなか彼女を外泊に誘うのはハードルが高い――。 「ご両親には僕からお伝えしますので」  ()えばお許しはいただけるものの、式を済ませるまでは必ず避妊をするというのが暗黙の了解のようになっていて、外泊のお伺いを立てるたびに密かに釘を刺されてしまう。  僕だって、日織さんには好きな衣装を着ていただきたい。  体型のことで制限がかかったり……もしかしたら悪阻(つわり)なんかでしんどい中での挙式になるようなことは絶対に避けますと、何度も申し上げているのだけれど。 (まあ、それが親心ってやつですかね)  今回も多分言われてしまうだろう。  式自体は、彼女の誕生日の、6月24日に一番近い日曜日――21日――に行う予定だ。式場も、彼女と選んだところをちゃんと押さえてあるし、日取りも大安で申し分ない。  それが済めば、晴れて僕は彼女と一つ屋根の下だ。 (それまでの辛抱、か……)  片思いしてきた期間を思えば、数ヶ月なんてどうってことないはずなのに、どうしてこんなに心がざわついてしまうんだろう。
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