待ち合わせ

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待ち合わせ

 バレンタインデー当日。  僕は日織(ひおり)さんを、僕の家にお泊めする許可をちゃんとご両親から取り付けることができた。  今回は一泊だけ、と念押しされてしまって、金曜の夜に一泊なさった日織さんを、土曜の夜までにはご自宅へお返ししなくてはならない。  戸籍の上では僕の妻なのに、と思うと何とももどかしい思いが込み上げるけれど、こればっかりは入籍を急がせていただいた際の絶対条件のひとつだから我慢するしかない。  早く先方のご両親の譲れない挙式――日織さんの花嫁姿のお披露目――をすませてしまいたい、と思う程度には僕は現状に焦燥感を覚えている。  だってそうだろう? 「修太郎(しゅうたろう)さんっ!」  そう、僕の名を呼びながら駆けてくる日織さんの愛らしさと言ったら!  今日の日織さんは、ダークグレイのジャンパースカートを、首元がスカラップ・ネックになった白いニットに合わせていらした。  頭には雪うさぎみたいなふわふわのベレー帽。  それに、もこもことしたボア素材の上着を着ていらっしゃるのが、小動物みたいな愛らしさを添えていて凶悪に愛しくて。  足元がカジュアルなスニーカーなのも、小さな彼女をさらに小ぢんまりと見せていて、思わず抱きしめたくなる可憐さだった。  服装もさることながら、どこか隙だらけで危なっかしい雰囲気が相まって、僕は日織さんから片時も目が離せなくなる。  名ばかりの入籍だけで彼女を縛っておけるとは、僕には到底思えない。  一日も早く自分のそばに置いて、僕がいない間は部屋から出られないように閉じ込めてしまいたい、とさえ思ってしまう。  そうしなければ、すぐに悪い虫がついてしまいそうだ。  よく今まで誰にも手をつけられることなく、無事でいられたな、と思う。  そう考えると、彼女を守り育ててくださったご両親に、心の底から感謝の念が溢れた。
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