待ち合わせ

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***  今日はご自宅までお迎えにあがります、とお伝えしたのに、少し離れた公園前で待ち合わせがしたいです、ダメですか?と可愛くごねられてしまった。  結局根負けしてしまう形で渋々OKを出したのだけれど。こんな風に僕を見て嬉しそうに走り寄って来られたりしたら、外での待ち合わせも悪くないな、と思ってしまうじゃないか。  本当は彼女を一人で外に出すのは嫌なのに、この相反する気持ちはどう折り合いをつけたらいいのだろう。  だが、確実に言えるのは、日織(ひおり)さんのご実家へお迎えに伺ったのでは、ここまで弾けた嬉しそうな様子は見ることは敵わなかった、ということだ。  天真爛漫にしか見えない彼女も、一応、ご両親の前では甘えにセーブをかけていらっしゃるらしい。 「日織さん、今日も本当に素敵です」  日織さんを両腕に抱きしめながら、僕は幸せすぎて心臓がギュッ、と苦しくなる。  と、ふと甘い香りが鼻先を(かす)めて、僕は彼女のそばですんすんと鼻を鳴らした。 「もぉー、修太郎さんったら、ワンちゃんみたいですよ?」  途端、日織さんにたしなめられてしまう。それでもどうしても気になるこの美味しそうな香り。  如何にも私を食べて?と言われているみたいな魅惑の香りに、僕は釘付けだ。 「日織さんから、甘くて美味しそうな香りがします」  素直にそう言ったら、日織さんが真っ赤になっていらして。  本当になんて愛らしいんだろう。  ここが公道でなければ、今すぐにでも食べてしまいたいところだ。 「日織さん、早く家に帰りましょう」  僕ははやる気持ちを抑えながら、彼女を車に(いざな)った。
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