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「……?」
何をしているのだろうと日織をじっと見つめると、
「修太郎さん、ご存知でしたか? 親指だけ第一関節しかないのですっ!」
他の指には第二関節まであるのに、ですっ!と続けながら、すごく嬉しそうに日織が言う。
さも一大事だと言わんばかりに修太郎の手のひらから逃げ出して、目の前で手指を握ったり開いたりして見せると、
「ほら、ね? 親指は“く”の字にしか曲がりませんが、他の指は“コ”の字に曲げることができるんです。私、二十年以上生きてきて、さっき初めてそのことに気が付きました! 驚きですっ!」
満面の笑みを向けられて、修太郎が戸惑ったのも仕方がないだろう。
「――えっと、今までお気づきになられていなかったのですか?」
聞けば、
「はい。そうなんですっ。おかしいですよね? 自分の手のことなのにっ!」
この娘は、なんて幸せそうな顔をして笑うんだろう、と修太郎は思った。そう思うと、目の前の日織のことが愛しくて愛しくてたまらなくなる。
「気づけて、よかったですね」
彼女の前髪をかき分けてそっとおでこにキスを落とすと、修太郎も彼女につられて笑顔になる。
時折こんな風に突拍子もないことを言っては、とびきりの笑顔を向けてくれる日織のことが、修太郎は本当に可愛いくて、どうしようもなくなってしまう。
自分は何でもないことだと見過ごしていたことが、日織の目を通すと、すごいことに思えてしまうから不思議だ。
「僕にも日織さんの大発見、実感させてください」
言って、日織の小さな手を、再度そっと自分の手のひらで包み込むと、修太郎は自分の手ごと彼女の手指を開いたり閉じたりしてみる。
確かに、日織さんの言う通りですね……。
そんなことを思いながら。
END(2020/02/06)
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