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「日織。お前には許婚がいるんだよ」
そう幼い頃から聞かされて育ってきた私は、それが余りにも当たり前の日常過ぎて何の疑問もなく「そんなものなのかしら」と思って育ってきた。
藤原家の一人娘として蝶や花のと育てられてきた私は、日本人にしては色素の薄い髪に、光が当たると虹彩までくっきり見えてしまうようなブラウンの瞳。
腰より少し短いくらいの髪の毛は、如何にもお嬢様然としたストレートのサラサラヘア。それを、今時あまり見掛けない姫カットに切り揃えていた。
まるで、昔話のかぐや姫が色違いで挿絵から抜け出てきたような、そんな印象を与えると、周りからは評されているんだとか。
そんな私のお相手の方は、何でもお父様の会社が経営難だったときに助けて下さった方の御子息らしい。
私より四つ年上で、今現在二十四歳だという彼とは、幼い頃に何度かお会いしたことがある程度。余りにも昔すぎて、その人といずれは結婚するのだと言われても、私にはいまいちピンときていなかった。
第一顔すら思い出せない人なのだ。
「日織、聞いているのか?」
お父様に呼ばれて短大卒業後の身の振り方を聞かされていた私は、その話で出た許婚の方のお名前に、ぼんやりと考え事に耽ってしまっていた。
幼い頃から空想や物語が大好きで……油断するとつい心ここに在らずになってしまう。それが私のいいところでもあり、悪い癖でもあるのだと、母にはいつも笑われている。
「ごめんなさい、お父様。健二さんが……何ておっしゃったのですか?」
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