8.キスのレッスン*

11/15
前へ
/481ページ
次へ
「僕は……貴女の初めてのキスの相手が自分なのだと知って……そのことが余りに嬉しくて……その、年甲斐(としがい)もなく、顔がにやけてしまったんです。それを、日(ひおり)さんに見られるのが恥ずかしくて……思わず後ろを向いてしまいました」  貴女より一回り以上も年上なのに、僕もまだまだです、と付け加えてから、 「それでも日織さんをこんな風に不安にさせると分かっていたら、嬉しくて顔がにやけてしまいました、と素直に言った方がはるかにマシでした……。本当にごめんなさい」  言って、まだ乾き切らない私の頬をそっと撫でると、壊れ物を扱うように優しく抱きしめてくださった。  私は彼の言葉に心の底から安堵(あんど)して……今まで生きてきて感じたことがないくらい異性――修太郎(しゅうたろう)……さん――のことを狂おしいほどに愛しい、と思った。
/481ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2870人が本棚に入れています
本棚に追加