2. 私は私、あなたも私

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 相手は5歳児なんだもんなあ。これだけ受け答えできるだけでもすごいと思うべきなのかな。ああ、これがゲームなら攻略本ほしいとかなる状況なのだろうか…… 「かんたんなのだ! さっきからずっと、ここはソフィーのゆめのなかっていっているのだ。ゆいはここにいる。だから、ゆいはもうソフィーのからだのなかにいるのだ。だから、『ひきこもる』ソフィーのかわりに、ゆいがソフィーのからだのあるじになるのだ!」  ソフィーが期待に満ちた顔でこちらを見つめてくる。 「ゆいはかえるからだがない。どうやってソフィーのからだにはいってきたのか、でるのかソフィーにはわからない。でも、でたらからだのないゆいは、きえてしまうきがするのだ。それなら、ソフィーのねがいをかなえてほしい、なのだ」  なるほど。つまり、身体の主であるソフィーによると、彼女の夢に入ったことで既に私の魂はソフィーの身体に入ってしまっているということなのだろう。そしてソフィーにとっては、私がソフィーとして活動して生命維持をすれば、彼女の『ずっと自分の世界で眠っていたい』という願いが叶えられる。  私からすれば、どうやってここに来たのかわからないし、自分の身体もない。今消えるのも怖いし、しばらくの間彼女のささやかな願いを叶えるくらい大したことないだろう。まさか、自分の身体なのに永遠に他人に使わせるなんてことはないだろうし。いずれ消えるにしても、他人の身体を通してとは言え、地球と違う世界を見てみるのもいいかもしれない。うん、メリットを超えるデメリットが見つからないな。よし。 「とりあえず、私がソフィーの代わりにソフィーとして生活すればいいのかな? 基本、ソフィーを寝かせてあげられるようにするけど、わからないことも多いし、ソフィーも手伝ってくれるならいいよ」 「もちろんなのだ! ソフィーがねてたらおへんじできないかもしれないけど、おきてるときはだいじょうぶなのだ! あと、ゆめのなかなら、いまみたいにあえるとおもうのだ!」  私が乗り気になったのを感じ取ると、ソフィーは両手を挙げて嬉しそうにはしゃぎ始めた。そして、 「けいやくはせいりつなのだ! からだのあるじをゆいにゆずるのだ、あとはよろしくなのだー!」  ソフィーがそう言うと同時に、 『相互の承認の意思を確認しました。2つの魂を持つ者への特別措置第4条により、ソフィア・ヘンストリッジの身体の主導権を山川結衣へと移譲しました。変更は、再度両者の合意を以って可能となります』 「な、よろしくって、え? ソフィーちょっと待って……!」  知らない声が私の頭に響いてきた。そして、白い空間にあった私の身体が光り始め、どこかに急速に引っ張られていくのを感じた。  契約とか、主導権とか、あとはよろしくとか、引っかかる言葉がたくさんあって、私は今すぐソフィーを問い詰めたかった。 しかし私の抵抗も虚しく、とてもいい笑顔をしたソフィーを残して、私の意識は暗転した。
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