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1. 我こそは辺境伯爵令嬢である!
「おまえはだれなのだ?」
あちこち絡まって鳥の巣のようになった、ぼさぼさの銀髪。ガリガリに痩せて青白い肌に、しわだらけの寝間着。そして、アメジストのように透き通った深い紫色の眼で私を覗き込みながら、小さな子どもが高慢な口調で話しかけてきた。幼稚園の年長から小学1年生くらいだろうか。
「くろいかみ。くろいめ。へんなふく。はじめてみるのだ。おまえはしらないひとなのだ。おまえはだれなのだ?」
その子は、返事をしない私にもう一歩近づいて、鳥の巣頭を揺らして頭を傾げながら、もう一度同じことを聞く。
「……人に名前を聞くなら、まず自分が名乗るべきなんじゃないの?」
相手は幼い子ども。しかもなんだがぼろぼろで具合でも悪いんじゃないかと思うような酷い状態だ。だが、その見た目に反して、尊大な態度で話しかけてくる子どもについムッとしてしまった。我ながら大人げない、と棘のある口調で言い返したことを少し後悔していると、
「ここはソフィーのゆめのなかなのだ! せっかくたのしいゆめをみていたのに、おまえがかってにはいってきたのだ! さきになのるのはあたりまえなのだっ!」
自分に言い返すなんて信じられない、とでも言わんばかりに目を見開いたソフィーと名乗る子どもから、聞き捨てならない言葉を聞いた。
ん? ソフィーの夢の中? どういうこと?
周りをぐるりと見回すが、自分とこの子以外誰もいない。それどころか、どこまでも真っ白で、床も壁も天井も一切境目のない、本当に何もない空間に、自分たち二人だけが異物のように存在していることに気づいた。
嫌な予感がした。
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