368人が本棚に入れています
本棚に追加
/530ページ
ここにいる、だから、みて。あんしんして、と。
そう、声を出そうとして血がごぽりとまた口から漏れた。
──ほんとにやばいかも。
「れんっ、じんっ」
そう何度も少女が泣きながら自分たちの名前を連呼する。
トク。
トクトクトクトク。
「だ…、じょ、ぶ」
それだけ告げ、手を持ち上げ彼女の頬を触ろうとしたが思ったように動かなかった。
全てのものが遠のき最後に少女の心音を感じながら、少年は完全に意識を飛ばした。
それから一ヶ月後。
目を覚ました少年には、事故前後とその前の半年ほどの記憶がすっかり抜け落ち少女のことも忘れていた。
それでも、トクトクと優しい心音だけはしっかりと覚えていた。
最初のコメントを投稿しよう!