1-2 欠けた記憶

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 視線を戻すと、牙を突き立てた首筋からまたうっすらと盛り上がってくる血が流れそうになっていた。それをチュッ、チュゥっと吸い取り舐めとると、ぼんやりしている美柚の身体がぴくりと反応した。  それを上目遣いで確認すると、レンはふっと微笑した。 弛緩(しかん)させた身体が警戒心のかけらもなく預けられていることが、左腕にかかる重みでわかる。  最後に首筋をひと撫ですると、ぼんやりと力をなくした美柚を両腕で抱え上げ座り直させた。  黒い髪がさらさらと揺れ、黒の瞳がぼんやりとレンを見つめる。それを見つめ返すレンの瞳はとろりと甘い。  濃密な気配が部屋を支配する。  カーテン越しに漏れ入る朝の爽やかな光が背徳的な気分にさせるほど、と言いたいところだがそこにはもう一人。 「相変わらず、慣れないな」  無表情にその光景を眺めていたジンであったが、早く目を(さま)せとばかりにがしがしと美柚の頭を撫でた。 「……っん、だって……」 「わかってる。吸血(これ)にはそういう作用があるからな」 「んっ」  わかっていて意地の悪いことを告げる群青色の瞳を、まだぼんやりする視界のまま睨むと、ほんの数ミリ口端を上げてジンは笑う。
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