1-2 欠けた記憶

1/54
368人が本棚に入れています
本棚に追加
/530ページ

1-2 欠けた記憶

美柚(みゆ)、いい?」 「うん」  頷く彼女の腰を抱き、白く細い首筋に顔を埋める。  透明がかった青の瞳はとろりと熱を帯び、形のよい唇が開かれ怖がらせないようにとゆっくり近づけられた。  甘ったるい匂いが鼻につき、ぷつっと皮膚が破れる音とともに突きつけられる牙。 「あっ」と小さな声とともに座り慣れたソファがぐっと沈み、二人分の体重が遠慮なくかけられた。  とくん、とくんと心音とともに流れる血液が、身体の全身を回り気持ちのよい倦怠感(けんたいかん)に包まれる。  時おり、じゅっという音をさせこぼさないように嚥下(えんか)する。 喉を通る熱さも、巡る血の甘さも、鼻に残る(かぐわ)しい匂い全てがこれ以上ないくらい好ましい。  好ましいからこそもっと欲しいという欲求とともに、大事にしたいと相手を思いやる気持ちが沸き起こる。  せめぎ合いの中満たされる今に、恍惚(こうこつ)とした表情でレンは顔を上げた。  彼女の赤い血が口端に残り、それを手の甲で(ぬぐ)うともったいないとばかりにそれを舐めとる。
/530ページ

最初のコメントを投稿しよう!