368人が本棚に入れています
本棚に追加
/530ページ
1-2 欠けた記憶
「美柚、いい?」
「うん」
頷く彼女の腰を抱き、白く細い首筋に顔を埋める。
透明がかった青の瞳はとろりと熱を帯び、形のよい唇が開かれ怖がらせないようにとゆっくり近づけられた。
甘ったるい匂いが鼻につき、ぷつっと皮膚が破れる音とともに突きつけられる牙。
「あっ」と小さな声とともに座り慣れたソファがぐっと沈み、二人分の体重が遠慮なくかけられた。
とくん、とくんと心音とともに流れる血液が、身体の全身を回り気持ちのよい倦怠感に包まれる。
時おり、じゅっという音をさせこぼさないように嚥下する。
喉を通る熱さも、巡る血の甘さも、鼻に残る芳しい匂い全てがこれ以上ないくらい好ましい。
好ましいからこそもっと欲しいという欲求とともに、大事にしたいと相手を思いやる気持ちが沸き起こる。
せめぎ合いの中満たされる今に、恍惚とした表情でレンは顔を上げた。
彼女の赤い血が口端に残り、それを手の甲で拭うともったいないとばかりにそれを舐めとる。
最初のコメントを投稿しよう!