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『25ans』、『ELLE』、『VOGUE』、『non-no』、それからそれからエトセトラ。
スタイリングするモデルに合わせて、私はいくつかのタイプの違うファッション誌を買い集めていた。付録のポーチやら小物入れやらが手に入るのは役得だけれど、あんまり増えても困るので、気に入らないグッズはメルカリで売る。私は自分の気に入ったものだけ残しておきたいタイプなのだ。
私はついでに新書コーナーでタイトルを眺め読みしていると、ふとあの白い空間が現れる前には一体あの場所に何があったのかしらという疑問が頭に浮かんだ。ロータリーの真ん中にあるものと言えば、"彩の国、さいたま"みたいな街の看板とか、あるいは時計台とか、あるいはモアイ像みたいなモニュメントとか、そういったものだろうか。何度も通って何度も見ているはずなのに、何故かそこに何があったのか思い出すことが出来ない。まるで空白が私の記憶の中の時間まで切り取ってしまったかのように、すっぽりと頭の中の映像から取り除かれてしまっている。
ティッシュ配りのお兄さんが言うように、別にそれで不都合があるわけではないのだけれど、気にし始めると止まらなくなってしまう。
私は会計を済ませて書店を出ると、ユウジに電話をかけた。
「ねえ、大宮駅のロータリーにあるオブジェってどんなのだったっけ?」
「何だよ、急に。」
「今日通りかかったら、無くなっちゃってたみたいなんだけど、前がどんなのだったかどうしても思い出せなくて。」
「んー、何だったかなー。俺も思い出せないかも。」
「そっか、なら良い。」
「そう?それより、次の日曜、海行こうよ。今年まだ行ってなかったし。仕事、休みでしょ?」
「ああ、うん、考えとく。」
私は電話を切った。海なんて、面倒臭いし本当は行きたくない。でも、ユウジは私を海に連れて行きたがった。一緒に海に行くことが恋人の証であるとでも思ってるみたいだ。
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