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※ ※ ※
「おひとりさまですか?」
お店に入ると、店員が尋ねてきた。日曜日のカフェは混雑していて、私は少し恥ずかし気に人差し指を立てた。しかし、店員は私の背後に視線を送って、慌てて訂正した。
「あ、失礼しました。お二人ですね。こちらにどうぞ。」
「え?」私は独りだ。
私が振り返ると、そこには人のカタチに切り抜かれたシルエットが立っていた。私の目にはそれは単なる白いシルエットに見える。そのシルエットが後ろから歩いてきて、そして私の横に並んだ。横から見た姿もやはり平面的である。
それは確かに人のカタチではあるけれど、人そのものではないだろう。
しかしその店員は特に変わった反応も見せずに、私たちを席に案内する。変なのは私だけなのだろうか。私は戸惑いながらも連れられるがままに席についた。
シルエットも私の向かいに座る。表参道を見下ろすテラスを背景に、人のカタチがくっきりと切り取られている。それは明らかに平面なのに、椅子にはきちんと座ることが出来ている。
「お決まりの頃、注文を伺いに参ります。」
「ありがとう。」
私はシルエットに目を釘付けにしたまま答えた。店員が席を離れて見えなくなると、私は恐る恐る声をかけた。
「あの...、あなたは?」
「実は私にも分からないのです。」
シルエットは男の声で言った。低く美しい声だったが、聞き覚えのある声ではないようだ。
「すみません、私、ちょっと混乱していて。これは、一体...。」
「どうやら私は誰かに切り取られてしまったみたいなのですが、この通り今やただの空白で、元々誰だったのか私にも分からないのです。」
"切り抜き男"は、何度も申し訳なさそうに少し体を小さくして誤った。空白の表情を読むことは出来ないけれど、多分とても困った顔をしているのだと思う。
「でも、どうして私のところに?」
「さあ、気付いたらここにいたので。もしかしたら、私はここにいるべき誰かだったのではないでしょうか?」
彼は遠慮がちに言うが、明らかに私に答えを求めているようだ。彼の言うように、もし彼が誰かによってこの世界から切り取られたのだとして、その切り取られた影が私の側にいるのなら、私こそ彼が誰であるのか教えてあげるべきなのだ。
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