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しかし、私は彼が一体何者なのか、どうしてか全く見当もつかない。確か、私は今日誰かから海に誘われていて、でも結局私は面倒だから断ったのだ。今日会うことになっていたのだとしたら、その人だった可能性が高い。
私は携帯電話を取り出して、メッセージの履歴を探る。
高橋真理子【何それ。変なの。おやすみ!】
鞍田加奈 ウサギのキャラクターのスタンプ
遠藤ナツミ 【了解!】
母【話があるから、後で電話下さい。】
どれも女性ばかりだし、彼女たちと私が海に行く約束をするとは思えない。"切り抜き男"の正体は私の携帯からも抹消されてしまっているみたいだ。
「ごめんなさい、私もあなたが誰だったのか分からない。でも、それじゃ困るよね。」
「ううん。大丈夫です。ゆっくり考えれば良いさ。」
私たちはコーヒーを注文して、静かにテーブルに向かい合う。しかし、彼はコーヒーカップには手を付けなかった。私は"切り抜き男"のシルエットを入念に観察する。背丈は大体175cmくらい、細身だけれど、肩幅がある。服はジャケットにチノパンツのようなフォルムだ。
「あの...、何てお呼びすれば良いですか?」
私は沈黙に耐えかねて、聞いてみる。
「そうですね...、ミスター・ホワイトというのはどうでしょう?年齢も何も分かりませんが、男だというこだけは確からしいので。」
「なるほど、じゃあホワイトさんで。」
「分かりました。それで、あなたは?」
「私は谷田部カオリです。」
「カオリさんですね。」
ホワイトさんはニッコリと笑った、と思う。
「ホワイトさんは大宮駅って知ってますか?」
「ああ、行ったことあると思うけど?」
「その大宮駅のロータリーに、あなたと同じような空白があったんです。ずっと大きい空白なので、人ではないと思うのですが、もしかしたら関係があるかも知れないと思って。」
「なるほど。そこにも本当はあるべき何かが失われてしまっているということでしょうか?」
「そう...、ですね。行ってみますか?」
私は"切り抜き男"の残したコーヒーを一口で飲み干して、二人分の会計を済ませて店を出た。
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