犯人たちのアンポンタン

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 「了解」  「ちょっと待て。相手の反応を知りたい。スピーカーフォンにしてかけろ」  脅迫の電話でミスが生じれば、それこそ本末転倒だ。相手の出方を知れば、部下に対応の指示が出来る。そう判断し、ボスは指示をとばす。  「わかりました」  誘拐グループの一人は、ボスの指示通り、電話帳から女子高生の母親の番号を探すと、スピーカーフォンにしてかける。数コール後に、男性老人の声が対応してきた。  「もしもし、どちらさんでしょうか?」  「そちらの、娘を預かっているものだが、娘を返して欲しかったら、言うことに従うんだ。でなければ娘の命はないぞ」  「ソプラノむすめをさずかっている者?」  「お前の娘を誘拐したものだ。指示にしたがわないと娘の命ははないぞ!」  「うちの娘を入会したもので、主治医に従わんと娘のエノキはない。なんじゃそりゃ」  「真面目に聞いているのか?」誘拐グループの一人は苛立ちを顕にした。  「待て。お前では話にならない。俺に電話を代われ」ボスは部下の一人に手を差し出した。  「じいさん、あんたの他に話せるひとはいないか。いなければ、オレが、言ったことを今すぐ家族に伝えてほしい」  感情的になって早口でまくし立てると、余計に聞こえづらいようだ。ボスは、ことばを一つ一つ区切りながら、ゆっくりと通話相手の老人に話しかけた。  「わかった」  「明日の、午前六時、三十分、本乃駅、南口に、現金、百五十万円を、持って来て、もらいたい。じいさんの、孫を返してやる、だから安心しろ」  「ああ、なんじゃ新手のオレオレ詐欺か」  どうやら通話相手はオレオレ詐欺と勘違いしたようだ。  「いや、これは本当だ。今、孫娘の声をきかせてやるから、待ってろ」  「結構結構。わしには孫娘はおらんのだよ詐欺師の兄さん」  老人が笑いながらそう言った背後で、別の音声が割り込んで来る。  『ただいま。じいちゃんは、一体誰と話してるの?』  「ああ、おかえり。なんかようかわらんがオレオレ詐欺の人と話しとったんじゃ」  『相手にしないの。て、それあたしのスマートフォンじゃない。ひとのスマートフォンで遊ぶなって言ったのに。こないだ爺フォン買ったでしょ』  「ああ、トイレに落ちて使えんくなったんじゃ。すまん」  『バッテリーと容量がもったいないから、早く切りなって』  「そうじゃ。なんかようかわらんが、明日の午前六時に、百五十万円を本乃駅まで持って来てほしいとな。わしに孫娘などおらんのじゃが、孫娘をくれると」  『そんな金があったら、じいちゃんをいい施設に預けられるんだけどね。なんでもいいから早く切って』  「そういうわけじゃ、兄さん」  「じいさん、一つだけ答えてくれ」ボスは部下の電話で、一つだけひっかかるものがあった。 スマートフォンでは、登録者の名前が液晶に標示されるため、どこの誰からかかって来たのかがわかるので「相手先の氏名を訊ねる」通話者は少なくなっている。先程の通話でも「相手先の氏名」を訊ねないまま会話が成立していたのもあり、誤解が誤解を招き、オレオレ詐欺と間違われてしまったのだ。  「じいさんの名字はなんという?」
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