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「ユキ、ユキ、どこにいるの?」
まだ幼い少女が中庭を小走りに横切っていった。ここはローン王国の首都。王都と呼ばれる都市で、この国一番の大都市でもある。
少女の名前はモモ。娼妓見習いで可愛らしい桃色の子供服を着ていた。王都でも一番の高級娼館の中庭で、モモは同期の少女ユキを探していた。
「…大きな声をお出しでないよ…!」
ユキを見つける前にモモが娼館の女主人に見つかっていた。外は夕暮れ。そろそろお店も目を醒まして客を招き入れる時分だ。
娼館の見習い少女達に必要なのは人形のような可愛らしさであって、市井の子供らしさではない。
「ごめんなさい」
躾けられた通りにきちんと頭を下げてモモが謝ると、女主人もそれ以上は怒らずにモモを解放した。
「今日はお前たちはお座敷がないから、これでお菓子でも買ってきな」
女主人がビタ銭を握らせると、モモはパァっと破顔した。
「ありがとうございます!」
よく躾けられてはいても、まだほんの子供だ。思いがけない外出の許可に喜びが隠せない。
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