いない、いない。

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いない、いない。

 毎日のこととはいえ、部活に向かう道中は憂鬱だ。望んで入った高校、そしてサッカー部。それなのにその場所は、けして僕が望んだ環境ではなかったのである。 ――くそ……どいつもこいつも下手くそなくせに、全部俺のせいにしやがって……!  中学までは、エースとして皆に信頼され、引っ張ってきた僕である。城田の実力ならどんな強豪校に行っても通用するよ!とみんなが賞賛してくれたのは記憶に新しい。  実際、それは人の評価のみならず、僕自身の評価も同様だった。エースでありながら実質司令塔でもあった僕。当然だ、MFのそいつより、僕のほうが断然うまかったのだから。僕についていけば、僕の指示に従えば試合で勝つことはけして難しくなかった。それが、全国区と言われる学校との試合であったとしてもだ。  そう、中学一年生の時も、二年生の時も、三年生の時も。連中が僕の言うことを忠実に守ってさえいれば、全国優勝は間違いなかったというのに。一年生の時は僕なんかよりもずっとトロい同級生をレギュラー起用し、二年と三年の時はそれぞれ先輩と後輩がドジを踏んだせいで失点して負けた。その結果、僕らの学校は県大会どまりで敗退。僕という天才的エースストライカーがいながら、なんてザマなのだろうか。  僕がいくら前線で点を取りまくっても、他の奴らが軒並み足を引っ張るようでは話にならないのである。特に、ディフェンスがザルなのはいただけない。なんでさっさとボールを上げないのだ。なんであんな簡単なオフサイドトラップで失敗しまくるのだ。パスは遅い、足も遅い、視野も狭い――そんな奴らばかりの環境で、僕の才能が生かされる筈がないのである。 ――だから、僕の力を正しく理解し、そこそこ粒の揃っている高校に行かなきゃ意味がないと思った。そうだ、僕の判断はいつだって正しい。今回だって間違ってなんかなかったはずだ、なのに。  蓋を開けてみれば――推薦で入った“全国区のサッカー部”は、それは酷いものだったのである。マネージャーが眼鏡のブスしかいなくて、先輩達がちょっと年上だというだけで態度がデカいのも腹立たしいが――何より、僕の実力を認めようとしないのが最悪である。 『お前の個人技の高さは認める。だがなんだ、その自分勝手なプレーは。失敗を全部人のせいにして、うまくいけばそれが全部自分だけの功績だと思い込んでいる。仲間を駒か道具としか見ないお前のプレーが、高校のサッカーで通用すると思ったら大間違いだぞ』  監督は厳しい顔で、そう言い放ってくれた、しまいには。 『推薦で入ったというから期待していたのに……さすがに失望した。仲間との連携を練習しろ。仲間の意見にもっと耳を傾けろ。フィールドに広い視野を持て。……それができないなら、お前のようなプレイヤーはうちの部に必要ない。不和の元になるだけだ』 ――ふざけるな、あのジジイ!不和の元ってなんだよ、元になってるのはそっちだろうが!みんなが僕の言う通りに動けば、まとまっていいチームになるって言ってんのに!!  あんな見る目のない監督と先輩達の元で、果たして自分の芽は出ることなどあるのだろうか。プロでも通用するほどの実力の自分が、こんなクソな部活のせいで潰されるなんて冗談でもない。
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