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そう言ってくれた時の要の姿が思い出されて、また一粒涙がこぼれる。 その涙が引き金になって、次から次へと思い出が連なって行く。 『……根詰め過ぎるな。涼は一度集中すると、他のこと全部忘れちまうんだから』 研究室で一つの結果を求めて実験に明け暮れていた時。休むのも食べることも忘れて気付けば深夜になっていた時、要は必ず研究室に現れた。そんな私に無理やり夜食を食べさせた。 うたた寝していた時は毛布を掛けてくれて。目を覚ますと必ず、隣に要が座っていた。同じように寝てしまっている時もあったし、私よりずっと優秀で手際のよかった要が私の実験を進めてくれている時もあった。 『まったく、おまえはしょうがない』 そんな風に呆れたように口元だけで笑うのだ。 もし兄がいたら、こんな感じなのかななんて思ったりして。 兄弟愛なんて私は知らないのに、可笑しくなった。 私は、知らないうちに要を傷付けて来たー―? だから、こんなことをするの――? 十年――その長い時間の中で積み重ねて来た思い出の中の要が、ぐるぐると駆け巡る。 思い出される要は全部、クールな眼差しの中に優しさがある温かい人だった。 私は、初めて心を許せる人に出会って、そんな要に甘えていただけだったのだ。 私が与えてあげられたものなんて何もなくて、ただ要の犠牲の上に成り立っていたかりそめの友情だ――。 「――涼。風呂湧いたから」 「要……」 真っ暗な部屋に、一筋の明かりがさす。部屋のドアが開いたのだと分かった。
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