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「うわあああん、あの子がいないよー。あの子がいなくなったよぉー」
莉子の泣き声がリビングでするが、僕は布団を被り直す。妻の楓のなだめ声がする。
「チョコ、お外へ出ちゃったみたい。莉子が保育園からお家に帰ってくるときにはね、チョコもお家に帰ってるよ」
そうそう、前にも勝手に外に出かけたんだよ。放っておいたら、戻ってくる。犬にも人間にも帰巣本能がある。
今日、休みなので、夜遅くまで飲んでたお父さんも、しっかり昨日、帰宅した。ベッドマット越しに、足音が地鳴りのように響く。不意に布団が捲くられた。嫌な予感がするので、狸寝入りを決め込む。
「お父さん、起きてよ」
妻の楓が肩を揺すっている。全身の力を抜けば、左右に揺れて気分が悪い。
「ねえ、起きてよ。莉子のことなの」
手の甲でまぶたを擦りながら、体を起こす。瞬きしながら、出勤前の身支度を整えた楓の顔を見た。メイクもバッチリだ。
「おはよう、お母さんどうしたの?」
「聞こえてたでしょう。私が『莉子のこと』って言ったら、いつもなら飛び起きるもん」
「はい、すみません。聞こえてました。チョコがいなくなったそうだね」
「うん、だから、探してきて」
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