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ドアに近づけば、鍵が内側から空いている。じーと妻と娘の似たような視線が、僕を突き刺す。
「鍵閉め忘れたのは、お父さんじゃないよ」
「昨日の夜、酔ったまま、お父さんがチョコ、散歩に連れてったでしょう」
楓の声に、腕組みをしながら、記憶の糸を手繰り寄せた。夜の十一時過ぎに、短い距離だが近所を散歩した。チョコにとっても、予想外の散歩だったのだろう。寝床で横になっていたのに、リードを見た途端、飛び跳ねてた。そこのドアを開いたとき、激しく尻尾を振って一緒に出かけた。
楓が莉子の手を握りながら、駐車場に出るので、追いかけた。
「あなた、その格好で外出ないでよ」
「うわああん、お父さん、だらしいないよー。わたしまでカッコウワルいよー」
妻と娘に叱られた。家に戻り、急いでズボンを履いて、適当なシャツに袖を通す。外に出る。
莉子は、後部座席のドアを自分で開いて、ジュニアシートに乗り込んでいた。しっかり、シートベルとも自分でつけている。
楓は真剣な表情で振り返りながら、様子を見守っていた。僕は、運転席のドア脇に立っていた。
「ヤダ! あなた、ジッパー空いてる」
「うわあ、お父さんがズボンのジッパー開いてるー。わたしまでハズかしいー」
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