子どもが泣きじゃくります。あの子がいなくなったので。

「いないな」

　アスファルトで舗装された道路に出た。家の近所は住宅街だ。赤い散歩用リードを手に、さっき、楓(かえで)の車が停止したＴ字路で左側に行く。

「チョコ」

　近所の手前があり、いい歳した大人が、チョコと大声で叫びづらい。路上の端に、工事中の看板があった。
　あ、思い出した。昨日の夜、散歩の際、マンホール工事中の看板が、何者かに倒されていた。危ないので、僕が立て直したのだ。
　チョコは賢い。誰に教わったのでなく、穴に落ちたら危険と知っていた。
　穴があり、チョコが避けて通るので、僕も穴に気づいた。ご近所のコンクリートの壁に、工事中の看板が立てかけてあった。
　看板の隙間から、穴を恐る恐る覗き込んだ。

「チョコ？」

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