子どもが泣きじゃくります。あの子がいなくなったので。

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 人間の言葉にわざわざ、返事をするのも、人間語を熟知しているようで怪しまれるだろう。しかし、声が出ててしまう。女性はデニムのジーンズで動きやすい、服装だ。  前脚(まえあし)で太ももを、引っかいてみた。この姿勢はつらい。結構良い匂いがするが、僕が犬だからか、人間にエロチックな感情は湧かない。 「抱っこするね」 「ワァ~ン? キャ~ゥン」  無言を貫く。結構豊かな胸が思いっきり、腹に当たる。どさくさ紛れに、舌で頬を舐めたが、女性は気にしてない。僕もしみじみとしただけだ。  手ならぬ、肉球(にくきゅう)で胸の先端をタッチしてみた。女性の頬がほんのり染まっていた。ぽいっと投げ捨てられ、青空を背景に、電線と電柱が回転した。反射的に受け身を取っていた。 「エッチ! 家についたよ」 「キャワン? クゥーン」
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