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…イベントが無事終わり、皆が安堵と満足の表情を浮かべる中、彼女は周りを気にすることなく、涙をこぼした。
「…もう、明日からみんなに会えないと思うと、寂しい」。
その言葉に皆、声を詰まらせた。
チケットの売り上げがなかなか伸びずに焦ったりして、楽しいことばかりではなかったが、それを共に乗り越えたからこそできた、本当にいい関係だったからだ。
…実際、その後、慰労会という口実で、何度集まっただろう。
中には吉野さんのように結婚する人もいたし、付き合ったり、別れたりしたメンバーもいた。
飲み会だけじゃなく、日帰り旅行に行ったり、初詣に行ったりもした。
でも5年も経つと、それぞれの環境が変わり、家庭を持ったり、仕事が忙しくなったりして、集まる人も少なくなり、こんなに集まるのは5年ぶりくらいだ。
メンバーがそろった頃、俺も会場へ向かった。
さあ、今日は楽しもう。あの頃のように…。
…最初の会場で飲んで食べて、二次会はカラオケボックスへ移動。
「さあ、今度は飲めよ」
と、みんな言ってはくれるが、それでもこういう性格から一応盛り上げ役となって、マイクを運び、注文を取り…。
さりげなく、音乃さんの横に座る機会を探していたが、タイミングがつかめない。
そのうち、吉野さんにバラされてしまった。
「亮太のヤツ、結婚するんだよ」
「ええ~っ」
「いつ?」
「お相手は?」
と、全員に注目されてしまう。仕方なく
「来月の末です…」。
「会社の後輩だって。さあ、前祝いだ~」。
と今度は皆に注がれるし、結婚相手のことを聞きたがるし…。
いいカモになってしまった。
…今回の飲み会開催を言い出したのは俺だ。
吉野さんは学生時代の先輩で、昔からお世話になっていたのは事実だけど、要はそれをネタに久しぶりに集まろう、というのは、みんなも分かったはずだ。
…でも、俺の心中はそれだけじゃなかった。
あの時のまま、誰と付き合っても忘れられなかった、音乃さんにもう一度逢って、自分の気持ちを清算したいと思っていた。
…あの頃、俺はあっという間に、彼女に惹かれていった。
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