心の中のあなた①~音乃

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…イベントが無事終わり、皆が安堵と満足の表情を浮かべる中、彼女は周りを気にすることなく、涙をこぼした。 「…もう、明日からみんなに会えないと思うと、寂しい」。 その言葉に皆、声を詰まらせた。 チケットの売り上げがなかなか伸びずに焦ったりして、楽しいことばかりではなかったが、それを共に乗り越えたからこそできた、本当にいい関係だったからだ。 …実際、その後、慰労会という口実で、何度集まっただろう。 中には吉野さんのように結婚する人もいたし、付き合ったり、別れたりしたメンバーもいた。 飲み会だけじゃなく、日帰り旅行に行ったり、初詣に行ったりもした。 でも5年も経つと、それぞれの環境が変わり、家庭を持ったり、仕事が忙しくなったりして、集まる人も少なくなり、こんなに集まるのは5年ぶりくらいだ。 メンバーがそろった頃、俺も会場へ向かった。 さあ、今日は楽しもう。あの頃のように…。 …最初の会場で飲んで食べて、二次会はカラオケボックスへ移動。 「さあ、今度は飲めよ」 と、みんな言ってはくれるが、それでもこういう性格から一応盛り上げ役となって、マイクを運び、注文を取り…。 さりげなく、音乃さんの横に座る機会を探していたが、タイミングがつかめない。 そのうち、吉野さんにバラされてしまった。 「亮太のヤツ、結婚するんだよ」 「ええ~っ」 「いつ?」 「お相手は?」 と、全員に注目されてしまう。仕方なく 「来月の末です…」。 「会社の後輩だって。さあ、前祝いだ~」。 と今度は皆に注がれるし、結婚相手のことを聞きたがるし…。 いいカモになってしまった。 …今回の飲み会開催を言い出したのは俺だ。 吉野さんは学生時代の先輩で、昔からお世話になっていたのは事実だけど、要はそれをネタに久しぶりに集まろう、というのは、みんなも分かったはずだ。 …でも、俺の心中はそれだけじゃなかった。 あの時のまま、誰と付き合っても忘れられなかった、音乃さんにもう一度逢って、自分の気持ちを清算したいと思っていた。 …あの頃、俺はあっという間に、彼女に惹かれていった。
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