心の中のあなた①~音乃

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この会以外の、彼女の顔が見たい。 どんな仕事をしているのか、どんな環境の中にいるのか、知りたい。 他の人が彼女の話をしていると、さりげなく聞き耳を立てていた。 実行委員の中でも、何組か付き合っている人がいたけど、音乃さんにそういう人はいないようだった。 魅力のある人なのに、どうしてかな、と思っていた。 …理由はすぐに分かった。 「彼女、これが終わったら、結婚するんだよ」。 相手は会社の同僚らしい、と聞いた。 イベントはあっという間に終わり、飲み会の時くらいしか、彼女に会える機会はなくなった。 それきり…。 久しぶりの再会もつかの間、家庭を持つメンバーが多くなったので、早めにお開きとなった。 「じゃあ私、あそこから電車なんで…、また会おうね。楽しかったね」 と言って、音乃さんは他のメンバーに軽く手を振り、駅へ足を向けた。 「あっ、俺もです」。 さりげなく、彼女の後に続いて駅に向かったものの、本当は電車に乗る用はない。 でも、何とか、彼女と二人で話がしたかったのだ。 「私は南方面だけど、亮太くんは?」 「俺は北方面です」 内心、土地勘があって良かったと思った。二人並んで歩くなんて、もうないかも知れない。 駅の前まで来て、電光掲示板の時計がまだ11時を回ったところだと気づいたとき、彼女の足が止まって俺を見返した。 「ねえ、幹事の慰労会、してあげようか」 「えっ、時間大丈夫なんですか?」 「うん、そのかわり、あそこね」 と彼女が指差したところは、駅前の雑居ビルだ。 訳がわからず、ぽかんとしている俺をせきたてて、近くの自動販売機で缶ビールを2本買うと、その建物の中に入り、勝手知ったる様子で、エレベーターに乗り、5階へ上がる。 箱から降りてガラス扉を出ると、広い屋上になっていて、ベンチもある。 「知らなかった? キレイな夜景の見える穴場スポットなのよ」 そういって、ベンチへバッグを置くと、フェンスの前まで行って駅を眺めた。 夜景スポットと言っても、もう寒い時期に入っている。人気はなかった。 俺も、手に持っていたコートを置くと、缶ビールを持ってフェンスの側まで行き、彼女に1本渡した。
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