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…?となった俺に、
「10年前、イベントが終わったとき、私は結婚間近だったでしょ。今日は亮太くんがそうでしょ?」
「まあね」と言ったのは、何て答えて良いか、わからなかったから。
「あの前の日の夜、亮太くんが戻ってくるかも、と思って淡い期待をしてたんだけど…」
…思い出した。
イベントの前の日、結局何人か泊り込みになって、例のごとく酒を飲み、そのまま雑魚寝した。
夜中にトイレに行きたくなって、下へ降りていくと電気が点いている。
部屋をのぞくと、音乃さんが一人で何かしている。
「どうしたんですか?」
と声をかけると、
「ちょっと今日やっとかないといけない事があって…」
彼女は実行委員会の要的な役割だ。それでも深夜にひとりというのは…
「何か手伝いますか?」
「でも、手伝ってもらえるところはもうないのよ。ここからは私でないと…。
だからみんなにも帰ってもらったの。あなたももう寝なさい」。
そんな風に言われると、返す言葉はなかった。あんなに二人きりになれるのを望んでいたのに。
これが終わったら、彼女はもう人のもの、と思ったら、今更何を言っても仕方ないと思ってしまった。
本当にまだ、子どもだったんだ。勇気も自信もなかった。
…結局、部屋へ戻ったもののそのまま眠れず、転々と寝返りを打ちながら、朝方、彼女が静かに出て行った音を聞いていた。
「…あなたが私のこと気に入ってくれてるって、なんとなく分かってた。
だから、結婚前の甘い思い出ができるかな、とちょっと期待したんだけど…。
…ゴメン! 今なら、勝手な言い分だって分かってる。
ははっ! ちょっと今日、酔ってるからさ。聞き流して!」
といってビールを飲もうとしたけど、彼女のも空だったらしい。
…俺だって酔ってる。そんな風に言われたら、弾みがついてしまう。
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