猫を探して街に

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猫を探して街に

 深夜にさしかかる時間だったが、駅がほどほどに近いこともあって、人通りはまばらながらに途切れることがなかった。  でも、猫の姿はどこにも見えない。  僕の呼びかけに対していつものかすれたような声で応える様子もない。  大きな川沿いにある公園脇を通りかかった。橋はまさか渡らないだろう、と僕は元来た方へ少しずつ戻ろうと、公園を斜めに突っ切って行った。  公園を出かかった時、車道の向こうにあるコンビニの明かりの中、見覚えのある人影をみた。  ちょうど店から出てきたのは、隣の部屋の彼女のようだった。  仕事帰りなのだろうか、相変わらず眼鏡の奥の目はきつそうで、白いマフラーに隠された口元もきりっとひき結んでいるようだ。そして、やっぱり足早だ。  片手に下げた小さなビニル袋は軽そうで、いかにもあんまんか肉まんが入っているかのように揺れている。マフラーが鼻を覆うあたりと袋のところからわずかに蒸気があがるのがみえた。  待って下さい、あの、僕はそう叫ぼうとして、いや、急に声をかけたらびっくりさせるかと、自分でも混乱したまま車道を突っ切ろうとした。  彼女と目が合った、確かに。  思いのほか、丸くて奇麗な目だ。そうまるであれは。
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