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「マイア、今日、帰りにカラオケ行こうよ」
「ごめん」
あたしは、親友のみっちゃんのお誘いを断って言った。
「今日は、ダメなんだ」
「なんで?」
「帰ってくるの」
あたしは、家へと駆け出したい気持ちをおさえて言った。
「弟が」
「ええっ?マイアの弟?聞いてない」
みっちゃんが、あたしの肩に手をまわして、言った。
「マイアの弟なら、さぞかし、美形なんだろうね」
「うーん」
あたしは、笑った。
「美形というより、かわいい、かな」
あたしは、最後に見た佳人の姿を思い出しながら言った。
5年前。
アメリカに留学することになった佳人を空港まで見送りに行った時、泣きながら、あたしにしがみついてきた、あの子。
本当に、かわいくて、かわいくて。
思わず、あたしも、泣いちゃったんだ。
あれから、5年が過ぎたけど、その間、佳人は、一度も日本へ、帰国しなかった。
たまに、メールとか、するぐらいで、ほとんど、連絡もくれなかった。
今日。
帰ってきたら、あの子に会ったら、うんと、抱きしめてあげたい。
もしかしたら、あの子、また、泣いちゃうかも。
あたしは、くすくす、笑った。
みっちゃんが、あたしを小突いて言った。
「マイアの弟君、また、絶対、絶対、紹介してよね。約束だよ」
「もちろん、よ」
あたしは、みっちゃんに言った。
「あたしの自慢の弟なんだから」
「楽しみ」
そう言っていたみっちゃんの言葉が、何故か、あたしの心で、リフレインしてた。
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