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佳人の不吉な予言は、当たった。 旅行の予定日の直前に、マコトさんから連絡があった。 「すまない。マイア、旅行だめになった」 「本当?」 あたしは、少し、ホッとしてるみたいだった。 「お仕事、忙しいの?」 「ああ」 珍しく疲れたマコトさんの声。 「ちょっと、いろいろあって。また今度、埋め合わせするよ」 それから、少しして、ネットに噂が流れた。 イロハフォールディングスが、外資に乗っ取りをかけられてるって。 まあ、あくまでも、ネットニュースだから。 そう、あたしは、思ってた。 あいつが帰ってくるまでは。 夏休みの終わる一週間前のこと。 いきなり、何の連絡もなく、佳人が帰国した。 何だか、変だった。 佳人は、誰か知らない男の人と一緒に、家に帰ってきた。 しかも、スーツ姿で。 高級そうなスーツに身を包んだ佳人は、全く、別人みたいに見えた。 佳人は、あたしに、言った。 「2、3日、泊まれる準備しといて」 「えっ?」 あたしは、訳がわからなかった。 聞きたいことが山ほどあった。 でも、あたしの疑問は、スルーされた。 佳人は、あたしを置き去りにして、知らない男の人と部屋にこもってしまった。 何なの? あたしは、ぶつぶつ言いながらも、佳人にいわれたように、お泊まりの用意をしてた。 そしたら、一時間くらいして、誰かがドアをノックした。 佳人、だった。 「佳人」 「何?」 あたしは、いっぱい言いたいことがあった。 でも、何から言えばいいのか、わからなくって。 だから、とりあえず、一番いいたいことを言うことにした。 「お帰りなさい」 「ただいま」 佳人があたしを抱き締めて、言った。 「ただいま、マイア」 もう。 こんな風にされたら、もう、何も文句がいえなくなるじゃない。 あたしは、言った。 「ごまかされないからね。こんなことで」 あたしは、佳人の胸をぐっと押して、体をはなそうとした。 すると。 佳人は、あたしを引き寄せてキスした。 ああ。 佳人のキスだ。 激しくて、熱くて、全てを忘れさせてしまうようなキス。 まるで。 これから、命のやり取りをする相手にするかのようなキスだった。 あたしは、佳人のキスに溺れそうで、必死に、しがみついてた。 やっと、体をはなした佳人が、あたしに言った。 「出掛ける準備は、できてる?」 「うん」 あたしは、頷いた。 佳人は、あたしの手をとって、指を絡めた。 歩き出す佳人にひかれて、あたしもついていく。 「どこに行くの?」 あたしがきくと、佳人は、言った。 「ここでない、何処かへ」 3時間後。 あたしは、温泉につかってた。 ふう。 いいお湯。 じゃなくて、あたし、こんなとこで、何してるの? あの後。 佳人の友だちっていう日系アメリカ人のレイさんが運転する車で、あたしたちは、有馬温泉にやってきた。 あたしたちは、有馬温泉でもけっこう知られた老舗ホテルにチェックインした。 予約してたらしくて、スムーズに部屋に通された。 ただ。 通された部屋は、露天風呂付きのスウィート。 信じられない。 何が、どうしたっていうの? あたしたちは、わりと、中流家庭の子だよね。 というか、まだ、学生だし。 なんで、スウィート? 本当に、いろいろききたかった。 でも、そんなあたしに、佳人は、言った。 「ちょっと用事があるから、マイアは、先に、風呂にでも行ってきて」 あたしは、マジで腹が立ってきた。 弟のくせに、姉に指図するなんて。 許せない。 でも、そこを我慢することにして、あたしは、とりあえず、浴衣に着替えて温泉に向かった。 浴衣は、とっても、かわいくて、あたしは、少し機嫌がなおってきた。 だけど、ごまかされないからね。 だって。 何だか。 佳人とあの、友だちっていうレイさんって人、危険な感じがする。 二人で? 何だか、悪いことしてるみたい。 あたしは、お風呂に浸かって考えてた。 お風呂から上がったら、絶対、佳人をとっちめてやる。 家を出ていってからのこと、全部、話してもらうから。 それから。 それから? あたしは、ふと、思った。 あたしたち、今夜、二人きりなの? まさか、ね。 あたしは、頭を振った。 まさか、それは、ないよ。 だって。 そんな。 だって、だって。 あたしたち、姉弟なんだよ。 そんなこと、あるわけないよね。 でも。 もしかしたら。 あたしたち、今夜、一線を越えちゃうの? あたしの頭の中が、ぐるぐる、回転をはじめた。 目が。 目が、回る。 そんな。 だって。 まだ、あたし、心の準備が。 じゃない。 あたしたち、そんなタブーを犯しちゃうの? こんなに、簡単に? 本当に。 何事もないように。 普通に。 まるで、近所のコンビニに牛乳を買いに行くみたいに。 佳人は、タブーを犯すの? あたしは? それで。 それで、本当に、いいの?
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