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12
あたしは、温泉で溺れて救助された。
91歳のおばあちゃんと87歳のおばあちゃんに。
危なかった。
あたし、もう少しで、違う天国に行っちゃうところだった。
しばらくして、意識を取り戻したあたしに、おばあちゃんたちは、言った。
「命は、大切にせんとあかんよ」
はい。
その通りです。
あたしは、おばあちゃんたちに、お礼を言って、部屋に向かった。
けど。
30分後。
あたしは、おばあちゃんたちと卓球してた。
「とりゃ」
91歳の節子ばあちゃんが、鋭いスマッシュをあたしに打ち込んだのを、あたしは、なんなく返す。
すると、今度は、87歳の愛子ばあちゃんがすきをついて角を狙ってくる。
抜かれた。
7対11で、おばあちゃんズの勝ちだった。
あたしは、がっくりとして言った。
「ま、負けた」
「まあまあ」
おばあちゃんズは、あたしを慰めるように言った。
「生きていれば、また、いいことあるよ」
あたしとおばあちゃんズがお別れして、あたしが、部屋に向かおうとしたとき、背後から、低い声が聞こえた。
「何やってるんだよ、あんたは」
あたしは、恐る恐る、振り向いた。
怒りに燃える佳人が立っていた。
「もう、何時間たったと思ってるんだよ。本当に、風呂に浮いてるんじゃないかと思って来てみれば、何?婆ぁと卓球って」
「えっと」
少し、というか、佳人の言うことは、おおむね、当たっていた。
あたしは、風呂に浮いてて、あのおばあちゃんたちに助けられて、その後、おばあちゃんたちと卓球をしてたんだから。
佳人は、あたしが、説明する前に、溜息をついて、あたしの手をとって、引っ張った。
「もう、いい。とにかく、来い、」
「え、ちょっと、ま」
「俺は」
佳人が言った。
「もう、誰にも、文句は、言わせない。お前にも、だ」
あたしたちが部屋に戻った時には、もう、レイさんは、いなかった。
かわりに、和室のテーブルに、すごいごちそうが並べられていた。
「すごい。こんなごちそう、見たことない」
「何、バカなこと言ってるんだ。早く、メシを食え」
佳人が座り込んで食事をはじめたから、あたしも、その正面に座ってご飯を食べた。
すごい。
お肉に、お魚。
山の幸、海の幸。
どれも、これも、美味しくて。
あたしは、一瞬、いろんなことを忘れてた。
食事が終わって、ホテルの人がテーブルを片付けはじめた時。
はっ、と、気付いた。
奥の部屋に、並んでしかれてる布団に。
これは。
あたしは、ちらっと、佳人を見た。
あたしの視線に気付いた佳人は、にやっと、笑った。
ええっ?
これは。
あたし、こんな場面、知ってる!
テレビで、見たことある。
町娘が悪者に、テゴメにされる場面だ。
佳人は、悪代官!?
そうこうしてる間に、ホテルの方は、去っていき、あたしと、佳人は、二人きりになった。
沈黙が、痛い。
「あの」
あたしが言いかけると、佳人が、ドサッと布団に倒れこんだ。
そのまま、動かない。
えっ?
もしかして。
あたしは、心配して、布団へ、そっと、近付いていって、恐る恐る、佳人をのぞきこんだ。
寝てる。
佳人は、すごい勢いで眠ってた。
「何、それ」
あたしは、拍子抜けしちゃった。
それで、隣の布団に横になった。
佳人の寝息が聞こえる。
あたしは、吹き出した。
バカみたい。
あたしは。
一人で、ああだこうだと考えて。
本当に。
でも。
あたしは、手を伸ばして、そっと佳人の手を握った。
佳人も、あたしの手を握り返した。
これぐらい、いいよね。
あたしたちは。
姉弟なんだから。
あたしたちは、手をつないで、その夜、一緒に眠った。
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