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あたしの名前は、マイア=岡崎=ペンデルトン。 普段は、岡崎 マイアと名乗ってるけど、これが、あたしの正式な名前。 パパは、アメリカ人。 ママは、日本人。 だけど、あたしは、ハーフじゃない。 あたしは、パパの連れ子なんだ。 だから、生粋のアメリカン。 だけど、日本産まれの、日本育ち。 片言の英語しか話せないと知った時の、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの落ち込み具合は、半端じゃなかった。 でも、外見だけは、本当に、アメリカナイズされてる。 薄い色の金髪をショートにしてるけど、少し、前髪は、長めにしてるのは、青い瞳を目立たなくしたいから。 あたしは、中身は、本当に、日本人なのに、この外見のせいで、いろいろ苦労してる。 まず、みんなに、あたしが英語をバリバリに話せると思われちゃう。 外国人の英語の先生が学校に来ると、必ず、フレンドリーに話しかけられて、毎回、恥をかかされる。 次に、すごい遊び人だと思われる。 なんで、アメリカ人だと、軽いと思われるのか、わからないけど、何かとナンパの対象にされちゃう。 みっちゃんは、それは、あたしが美人だから、なんて、言うけど、そんなことない。 あたしなんて、本当に、普通の女子高生なんだから。 成績だって、中の上ぐらい。 外見以外は、本当に、目立たない普通の女の子。 それが、あたし。 みんな、なかなか、そこら辺を理解してくれなくて困ってる。 今日も、うちのマンションの前で、帰宅してくるあたしをちょっと不良っぽい男子たちが待ちかまえてた。 本当に、嫌になっちゃう。 無視しようとしたけど、こういう人たちって、鋼のメンタルを持ってるのかな、負けずに、あたしを取り囲んで話しかけてきた。 「俺、西高の上杉ってんだ。知ってる?」 「知りません」 あたしは、出来るだけ冷たく答えた。 だけど、相手は、全然ひいてくれない。 「ええっ?けっこう、この辺じゃ、有名なんだけどなぁ」 「退いてくれます?あたし、家に帰りたいので」 あたしは、鉄仮面モードで言ったけど、男子たちは、退こうともしてくれない。 「冷たいなぁ。そんなこと、言わずに、俺たちと、ちょっと遊びに行かない?」 「行きません」 言ったあたしの腕を上杉とかいう子が掴んだ時、あたしの後ろから声がした。 「やめてくれる。人の物に手を出すのは」 それは、まるで、地獄の底から響いてくる悪魔の声みたいだった。 男子たちは、急に、脅えたみたいな顔をして後ろずさった。 「まだ、わからない?」 声の主は、男子たちにだめ押しした。 「これは、俺の物だって言ってるだろ」 「か、彼氏さんがいるなんて、知らなくて」 上杉って子は、青ざめた表情で逃げるように、走り去った。 「本当、すんません」 あたしは、後ろから迫ってくる暗黒のオーラに心底、びびってしまってたけど、おそるおそる振り向いた。 そこには、巨人族が、いた。 あたしは、身長は、低い訳じゃないけど、その男は、あたしより頭一つ分は、大きかった。 短い黒髪に、鋭い切れ長の目。 何より、その、肉食の獣を思わせる雰囲気。 あたしは、思った。 この男は、ヤバイ。 これは、人の姿をした黒豹だ。 あたしは、確信した。 逃げなきゃ。 「あの、助けて頂き、ありがとうございました。それでは、あたしは、これで」 あたしが去ろうとすると、男は、言った。 「冷たいなぁ。それが、5年ぶりに会う弟に言う台詞かよ」 弟? あたしは、もう一度、その男を見た。 「佳人?」 「そうだよ」 素っ気なく言う、その男に、あたしは、もう一度、繰り返した。 「本当に、本当に、佳人?」 「何度も言わせるなよ」 その男は、いらっとした様子で言った。 あたしは、すっかり変わり果てた、かわいい弟を見て、茫然として立っていた。 そんなあたしを見て、男は、にやりと笑って言った。 「ただいま、お姉ちゃん」
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