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説明しよう。
今、我が家のリビングに我が物顔で居座っている男がいる。
その男の名は、佳人=岡崎=ペンデルトン。
あたしと同じく、彼も又、普段は、岡崎 佳人と名乗っている。
彼は、あたしのたった一人の弟だけど、あたしたちの間には、血の繋がりは、ない。
彼は、ママの連れ子で、生粋の日本人だった。
「何で、何で、こんなことになっちゃったの?」
あたしは、キッチンから、ハワイにいるママに電話をかけていた。
『何でって、あんた』
受話器の向こうで、ママが笑って言った。
『5年もたったんだよ。そりゃ、成長もするわよ』
「成長って」
あたしは、言った。
「あんなにかわいくて、ヒヨコみたいだったのに、何で、こんな、邪悪な獣みたいになっちゃったの?」
『獣って、あんた』
ママは、大爆笑してた。
『邪悪な獣』
「笑い事じゃないんだから」
あたしは、必死に訴えた。
だって、こんな獣と、これから、二人きりで生活していくことになるんだから、当然でしょ。
なのに、ママは、ちっともわかってくれない。
『はいはい』
ひとしきり笑った後で、ママは、言った。
『そんなに心配しなくても、大丈夫。あんたの弟なんだから』
「ママぁ」
あたしが、受話器に向かって叫んだ時、後ろから手が伸びてきて、あたしから受話器を奪っていった。
佳人、だった。
「ああ、お袋?」
佳人は、あたしをちらっと見ながら言った。
「わかってるよ。大丈夫。安心して」
そして、彼は、にやりと、笑った。
これが、あたしの受難の日々の始りだった。
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