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翌日、あたしは、早起きして二人分のお弁当を作った。 ママと暮らしてた頃も、あたしは、あたしとママのお弁当を作ってたんだけど、最近、ちょっとさぼってたから、ちょうどよかったんだ。 うん。 正直に言う。 本当は、眠れなくて、早く起きちゃっただけ。 だって。 佳人が悪いんだよ。 佳人があんな格好でうろうろするから。 佳人の体は、もう、完成されてる男の体だった。 痩せてるけど、しっかり筋肉がついてて、細マッチョ? やだ。 思い出したら、何だか、顔があつくなっちゃう。 こんなこと、みっちゃんにアイドルの写真集とか見せられても思ったことなかったのに。 なんで? なんで、佳人なの? あたしは、胸のドキドキをしずめようとして、深呼吸する。 この5年間、ママと二人暮らしだったから、あたしは、男というものにあまり免疫がない。 きっと、そのせい。 あたしが、そう思った時、あいつがぬっと現れた。 「何、一人で赤くなってるの?」 「な、何でもないわよ」 「そう?」 佳人は、何げない様子で、あたしのおでこに触れた。 あたしは、びくっ、と体をひいた。 「何?」 「いや、熱でもあるのかと思って」 慌ててるあたしを見て、佳人は、真面目な顔で言う。 やだ。 なんかドキドキしてる。 何だか。 あたしがさっきまで、何を考えてたか、見通されてるんじゃないかって思って、佳人の顔がまっすぐに見れない。 なんで? どうしちゃったの、あたし。 佳人は、パパとママの考えで、市内の私立の男子校に編入することになってる。 あの子は、アメリカで大学院に通ってたらしいから、本当は、そんなの必要ないんだけど、同じ年頃の子たちとの付き合いを学ぶことも大切だからって、両親が佳人を日本の高校に通わせることにしたみたい。 だけど。 ママが用意してた学生服が、すごく似合わなくて、あたし、思わず笑っちゃった。 何だか、サラリーマンのコスプレみたい。 佳人は、笑ってるあたしを見て、傷ついたみたい。 「そんなに、変?」 違うの。 あたしが笑ってるのは、学生服姿の佳人を見て、ホッとしたから。 ああ、まだ、この子は、あたしの弟なんだって。 あたしは、佳人に優しく言った。 「変じゃない」 ううん、むしろ、かっこいいかもしれないという考えを、あたしは、打ち消した。 あたしは、少し寂しかったんだ。 なんか、久々に会った佳人が全然知らない人になっちゃったみたいで。 でも、学生服姿の佳人は、あたしの弟の佳人だった。 昔のままの、あたしの弟。 あたしは、ちょっと嬉しかった。 だけど、それは、間違いだったんだ。 佳人の学校は、名門男子校。 とっても厳しくて有名なとこ。 だから、特に心配してなかったのに、奴は、やってくれた。 同居2日目にして、いきなりの無断外泊。 何で? 何処に、行っちゃったの? あたしは、心配して、何度も佳人の携帯にメールを送ったりしたけど、全て、ナシのつぶて。 どういうこと? やっぱり、あたし、あの子が理解できないよ。 あの子は。 佳人は、とんでもない不良になっちゃったの? 結局、あたしは、その夜、一睡もできなかった。 なのに、あいつは、涼しい顔で朝帰り。 玄関ですれ違った時、あたしは、気付いた。 甘い香り。 女の影。 何なの、本当に。 あたしは、すごく腹が立って、佳人を捕まえて言った。 「どこに、行ってたの?」 「女のとこ」 佳人は、あっけらかんとして言った。 女? あたしは、足下が崩れ落ちていくのを感じた。 何で? 女って。 佳人は、まだ、15歳なんだよ。 あたし、すっかり、動揺して。 なのに、あいつは、うっとおしそうにあたしに言った。 「ルールその3、プライバシーに踏み込まない、だったよな」 なんですって? あたしは、頭に血が登るのを感じた。 何なの、そのいい方は? 本当に、本当に。 あたしは、怒りに任せて、佳人の胸元を両手で殴った。 何度も、何度も。 佳人は、何も言わずにあたしに殴られてたけど、終いに、あたしの両手をつかんで、あたしの顔をのぞきこんだ。 あたしは、泣いてた。 佳人は、一瞬、はっとして動きを止めた。 あたしたちは、見つめあった。 次の瞬間。 佳人は、あたしにキスした。 一瞬で、全てが、変わってしまった。 何もかも。 あたしたちの関係も、何もかも。 あたしは、体をはなして叫んだ。 「最低!」 あたしの言葉に、あいつは、笑った。 「そうだよ。知らなかったの?」
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