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家に帰ると、玄関で佳人が待っていた。 「何?」 あたしは、佳人をしっかりと見上げてきいた。 佳人は、怖い顔をして、一言。 「遅い」 「遅いって」 あたしは、笑って言った。 「ちょっと猫カフェによってただけじゃない」 「一人でうろちょろするな。また、変な連中に絡まれるぞ」 佳人は、言った。 「もしかして、お前、友だち、いないの?」 あたしは、ムッとして言った。 「いるわよ、友だちぐらい」 あたしは、みっちゃんのこと、思い浮かべてたつもりだったけど、すぐに、あたしの頭の中に、マコトさんの顔が浮かんできた。 やだ。 あたしは、少し、頬が赤らむのを感じた。 佳人が言った。 「何だよ。赤くなったりして」 「何でもないわよ」 あたしは、佳人の横をすり抜けて、自分の部屋へと戻った。 ベットに腰かけて、溜息をつく。 さっきのマコトさんのセリフが頭の中で、リフレインしてる。 結婚を前提として。 ええっ? 本気なのかな。 あたしは、まだ、17歳なのに。 マコトさんより、10歳も年下なのに。 でも、マコトさんは、嘘や冗談で、こんなことを言うタイプの人じゃない。 じゃあ、本気で、あたしと結婚を前提のお付き合いをしたいと、望んでいるの? あたしは。 どうしたらいいのかな。 あたしは、そのまま、ベットの上に体を投げ出した。 しばらくして気がつくと、もう、辺りは、真っ暗闇だった。 月もない、夜。 暗闇。 やだ。 あたし、制服のまま、寝ちゃってた。 起きなきゃ。 そう思った時、ドアが音もなく開いて、明かりがさした。 誰か、入ってきたの? 佳人、だ。 あたしは、何故か、目を閉じたまま、眠ってるふりをしてた。 佳人が近づいてくる。 あいつは、溜息をついて、呟いた。 「いい気なもんだな」 次の瞬間。 佳人は、あたしの足下にあったタオルケットをあたしの体にかけた。 そして、眠ってるあたしの横のベットの上に腰かけて、あたしのことをのぞきこんだ。 な、何? 佳人の呼吸の音が聞こえた。 息がかかる。 あたしの心臓がびくんと跳ねた。 あたしは、このドキドキが佳人に知られちゃうんじゃないかって思った。 佳人が静かにあたしのことを見つめてるのがわかった。 ああ、もう。 静まれ、あたしの心臓! 佳人が、あたしを見つめていたのは、ほんの少しの間だったのかもしれないけど、あたしは、永遠のように感じた。 佳人は、あたしの体のすぐ側に肘をついて、あたしのことをのぞきこんでいる。 ペパーミントの香り。 佳人がよく食べてるタブレットの匂いだ。 佳人の静かな息づかいがあたしの耳もとをくすぐる。 あたしの感覚は、すごく鋭敏になってて、今なら、何メートルも向こうで針が落ちる音も聞こえそう。 佳人の匂い。 パパとは、違う、男の人の匂いだ。 佳人の心臓の音。 リズミカルに脈打つ音。 そして。 佳人の体温。 暖かくて、何だか、包み込まれるみたいな、熱が伝わってくる。 このまま。 あたしは、思ってしまう。 時間が止まればいいのに。 あたしは、永遠に眠り続け、佳人は、そのあたしを永遠に守り続ければいい。 茨の檻の中で。 あたしたちは、永遠に、一緒、だ。 だけど。 佳人は、しばらくしたら、あたしから体を離して去っていった。 近づいてきた時と同じ様に、物音すらたてずに、黙って去っていく。 部屋の扉が閉じられる。 真っ暗闇。 あたしは。 何故だか知らないけど、涙が流れた。 何故? 翌朝。 あたしは、いつもと同じ様に早起きをして、二人分のお弁当を作る。 佳人も、まったく、いつもと変わらず、素っ気ない。 あたしも、いつもと同じ。 何も変わることのない、いつも通りの朝だった。 ただ。 すれ違うとき、佳人のペパーミントの香りに、あたしは、反応した。 「ミントのタブレット?」 「ああ、これ?」 佳人は、あたしの手を取ると、その手のひらの上に、ポケットから出したペパーミントのタブレットを2、3個のせた。 あたしは、ペパーミントのタブレットは、苦手だったけど、口の中に放り込んだ。 ミントの刺激が舌を射して、広がっていく。 「同じ」 あたしは、言った。 「あたしたち、同じだね」 「ああ」 佳人が言った。 「どこまでも、一緒、だ。俺たちは」
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