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それから、数週間が過ぎた。 それは、夏休みの始まる前日。 みっちゃんと話ながら帰宅しようとしてたあたしの前に、マコトさんが現れた。 マコトさんは、校門の前で、ユリの花束を持って立っていた。 何か。 マコトさんは、少し、強もてなので、みんな、遠巻きにしてた。 ひそひそ話が、聞こえた。 「ヤクザ?」 「黒塗りベンツ」 「ヤクザが花束って」 あたしに気づいたマコトさんは、少し、ホッとした様子で微笑んだ。 「マイちゃん」 「マコトさん、どうしたの?」 あたしは、マコトさんの側に駆け寄った。 マコトさんは、あたしに花束を渡した。 「もう、2度とマイちゃんに会えないかと思った」 マコトさんに言われて、あたしは、胸がちくりと痛んだ。 あの日。 プロポーズされて以来、あたしは、あの猫カフェに行ってなかった。 だって。 あたしは、マコトさんに、どう答えればいいっていうの? あたしは、佳人と同じ、獣、なんだ。 あたしが、汚されると、マコトさんは、言った。 でも、佳人を汚してるのは、あたしの方かもしれない。 あたしは。 汚ない。 あたしは、花束を抱き締めたまま、何も言えずに立ち尽くしていた。 マコトさんは、困った顔してる。 どうすれば、いいの? その時、みっちゃんが、言った。 「誰?マイア、紹介してよ、ちゃんと」 「あっ」 あたしは、みっちゃんの言葉で魔法がとけたみたいに、ホッとして、マコトさんに向き合えた。 「この子は、みっちゃん、えっと、三ッ橋 洋子さんです。みっちゃん、この人は、マコトさん」 「よろしくです」 みっちゃんが、屈託なく笑って、マコトさんに挨拶する。 マコトさんも、にっこり笑って言った。 「君が、みっちゃん、か。マイちゃん、いや、マイアさんから話をよく聞いているから、何か、初めての気がしないな」 「またまた、どうせ、悪口ばっかりでしょ」 あくまでも、みっちゃんは、明るい。 マコトさんは、みっちゃんに笑いかけた。 「いや、いつも、マイアさんが、お世話になっていると聞いているよ」 「何のお世話、よ」 みっちゃんと、マコトさんが笑う。 つられて、あたしも、笑った。 「ところで、今日は、もしかして、デートですか?」 みっちゃんが、目を輝かせて、マコトさんにきいた。 マコトさんが、照れた様に頷く。 「もし、マイアさんが、よかったらだけど、ね」 「マイア、行ってきなよ」 みっちゃんが、あたしの背中を叩いて言った。 「後で詳しくきかせてね」 マコトさんは、あたしを海の近くのおしゃれな隠れ家的なカフェに案内してくれた。 少し薄暗い店内が、あたしを何だかホッとさせてくれた。 あたしたちは、紅茶を飲みながら、しばらく、黙って座っていた。 「あの」 あたしは、口を開いた。 「ごめんなさい」 「何で、マイちゃんが、謝らないといけないんだ」 マコトさんが優しく言った。 「私の方こそ、すまない。君が、あの店に現れるのが待ちきれずに、学校まで押し掛けてしまって」 「ううん」 あたしは、言った。 「花束、ありがとう。とても、嬉しかった」 そう。 あたしは、当惑するのと同じくらい、嬉しかったのだ。 マコトさんが、あたしを探して来てくれたことが。 マコトさんは、紅茶のカップを持って、ごくっと飲んでから言った。 「マイちゃん、いや、マイアさん」 「はい」 「返事を聞かせてもらえますか?」 マコトさんに見つめられて、あたしは、頬が熱くなるのを感じた。 あたしは。 頷いた。 「あたしなんかでよかったら、よろしくお願いします」 「本当に?」 マコトさんは、信じられないぐらい嬉しそうに微笑んだ。 すごく、幸せそうな笑顔。 あたしは、それにみあうのかな。 ふと。 あたしの脳裏を、佳人の面影がよぎった。 あたしは。 きっと、佳人のことが、好きなんだ。 最初から、ずっと。 でも。 だからこそ、あたしには、マコトさんが必要なんだ。 あたしたちを。 あたしたち、姉弟の関係を守るために。 あたしは、酷い女、だ。 あたしは。 きっと、地獄へ落ちるに違いない。
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