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それを聞いて、俺は妻の受け取り方に驚くとともに、胸の奥から得も言われぬ喜びが一気に溢れ出るのを感じた。
――どうぞ奥さまとお幸せに。――
紗英子がどういうつもりでこの一言を書いたかはわからない。だが、少なくとも妻にとっては、疑念を確信に至らせるだけの威力があったのだ。
紗英子と俺は恋仲だった――そう思わせるだけの、生々しさを孕んだ言葉だったのだ。
「アッハッハッハッハッハ……」
俺は大声で笑い出した。
第三者から紗英子の好意を指摘されたことが、たまらなく嬉しかった。
幻想として片付けてしまった日々が、一斉に色づいて華々しく俺の心に戻って来た。
嬉しくて嬉しくて、後から後から笑いが込み上げた。
妻が怪訝そうな顔を向けている。
次第に眉間のシワは深くなり、嫌悪感すら浮かび上がっていく。
心の中に冷や汗が滲む。
俺は笑いを止められない。
そう、この笑いを含め全てを穏便に片づける術を探り当てるまで、決して笑いを止める訳にはいかないのだ。
〈終〉
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