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そして、ついに文化祭が今週末に迫った水曜日。被服室にやって来た私は、室内に入るなり息を飲んだ。
「……!!」
トルソーに掛けられていた完成していたはずのウェディングドレスの裾が、ズタズタに切り裂かれている。
「ちょっとこれ……どうしたんですか!?」
私はトルソーの前に立ち、ドレスを見つめている染殿先輩に駆け寄った。その側では、七瀬先輩が青い顔で立ち尽くしている。
「あっ、美緒ちゃん!あのね、私が被服室の鍵を開けて中に入ったら、こうなっていたの……!」
七瀬先輩は私の腕を掴むと、泣き出しそうな顔でそう言った。
「せっかく……せっかく染殿君が、とても綺麗に仕上げたドレスだったのに……」
私は、切り裂かれてほどけた裾の刺繍を見て、この上なく悲しくなった。銀糸で丁寧に刺された花は、染殿先輩が丹精込めて入れていたものだ。
そっと染殿先輩を見上げると、いつも通りの無表情な顔がそこにあった。怒っているのか悲しんでいるのか、全く感情が読み取れない。
代わりに、
「誰がこんなことを!許せないです!!」
私は心の底から怒りの声を上げた。
「七瀬先輩、扉は鍵が掛かっていたんですよね」
私は七瀬先輩の顔を覗き込んで確認をした。「うん」と先輩が頷く。
「それなら、先輩が借りるよりも先に鍵を借りた人が犯人ですよ。私、職員室に行って聞いて来ます!」
「あっ、美緒ちゃん、待って!私も行く!」
被服室を飛び出した私の後を、急いで七瀬先輩が追い駆けて来る。
職員室に向かいながら、
(もしかしたら犯人は、あの子達かもしれない)
中庭で私に絡んできた1年生3人組のことが脳裏に浮かんだ。
(嫌がらせをするなら、私にすればいい。染殿先輩が大切にしているものを壊すなんて、絶対に許せない!)
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