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プロローグ
最初は、本当に軽い気持ちだった。
新しい高校に入学して数週間が経ち、ようやく学校に慣れて来た頃、同じ中学出身のクラスメイトの早乙女小春(さおとめこはる)が、
「美緒、一緒に手芸部に入らない?」
と誘って来た時、それなりに裁縫経験のある私は、深く考えず、
「別にいいけど」
と答えていた。
この高校は、課外活動も勉強の一環という考えを掲げており、生徒全員がクラブに入らないといけない決まりになっている。遅かれ早かれ、どこに所属するか決めなければいけなかった。
自分が体育会系でないのはよく分かっていたし、文化系で特にしたいこともなかったので、小春の誘いは、ひとつのきっかけでもあった。けれど今から思えば、見学もせずに入部届を出したのは、早急すぎる決断だったと思う。
その日、さっそく小春と一緒に手芸部に入部届を出しに行くと、部室になっている被服室からは、扉が閉まっていても分かるほど、賑やかな声が漏れ聞こえていた。
「すみません、入部届を出しに来ました!」
小春が元気よく声を掛けて扉を開けると、教室の中の女子が一斉にこちらを向いた。40人ぐらいいるかもしれない。ネクタイの色が赤なので、みんな1年生だ。
(こんなに入部希望者がいるの!?)
私が驚いていると、その中にいた唯一緑のネクタイをした3年の女子が、私たちに気が付き、歩み寄って来た。肩の長さでふわりと内巻きにされたボブヘアーが可愛らしいその先輩は、私たちの顔を見ると、
「あなたたちも入部希望の1年生?」
と聞いた。
「はい!」
小春が元気よく頷く。
「今年は入部希望者が多いな~。もう既に定員オーバーだけど……まあいいか。きっと後で減るだろうし」
先輩はぶつぶつと何かつぶやいていたが、すぐににっこりと笑って私たちの手から入部届を受け取り、
「入って適当に座っておいてくれる?」
教室の中へと招き入れてくれた。
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