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第二章
真っ青な空の下、王都ベリランカはリンゴの断面のような形に広がっていた。円状にも似た王都の周辺を囲むのは、外敵の侵入を防ぐ高い外壁だ。
リンゴの頭の部分に、高々と存在を主張する真白き王城がどっしりと居を構えており、王城の正面から真っ直ぐに伸びる大通りが王都ベリランカを横断している。
その大通りを馬車で行きながら、エファは窓から城下の様子を眺めていた。
レオナルトが以前に美しいと言っていたが、王都ベリランカの街並みは予想以上にエファを感心感激させた。
広い大通りは綺麗に整備され、茶色いレンガ道になっている。歩道と馬車道が別れて作られており、その境目には緑葉樹が植えてあった。
家々はどれも二階建て以上の建物で、大通りに面しているためか、一階は何かしらの店になっていることが多い。赤や黄色、黄土色、稀に白といったレンガの美しい色彩が、民家を芸術品のように見せていた。
ふいに、馬車が傾いた。
橋にさしかかったらしく、サヤサヤと水の流れる心地よい音がする。
窓から顔をのぞかせれば、透明に清んだ水が橋の下を流れていた。
「どうですか、王都ベリランカは。気にいりましたか?」
向かい側から、レオナルトが言った。今日はアルノーが御者席にいるので、馬車内に二人だけだ。
エファは頷きながら顔を戻して、窓を閉めた。
「うん、すごく綺麗! こんな綺麗な都で暮らせるなんて、幸せだねぇ」
「そう言っていただけると、とても誇らしいです。王都ベリランカは、我々の誇りですから」
「聖伯爵さ……じゃなかった。レオナルト様は、ここで暮らして長いの?」
レオナルトから名前で呼ぶように言われたのは、二日ほど前だ。なんでも、王都につくと他にも聖伯爵がいるので、紛らわしいからだという。
まだ慣れない名前呼びに戸惑いつつも、エファはレオナルトに視線を向ける。
レオナルトは、考えるように顎に手を当てた。
「……物心ついたころから、ここで暮らしてますよ。聖伯爵の地位を頂いてからは仕事で地方に行くことも多いですが、基本的には王都ベリランカで暮らしています」
「そうなんだ。ここが、レオナルト様の育った都なんだね」
何気なく呟いたエファに、レオナルトが軽く目を瞬いた。
「そんなふうに言っていただけるなんて、嬉しいですね。私に興味をもっていただいているみたいで」
言われて初めて、自分が少し恥ずかしい物言いをしたことに気づいた。夫のことに興味を持つのは当然かもしれないが、今の言い方ではエファがレオナルトのことをすごく知りたかっているようではないか。
(か、考えすぎだって。別におかしなことは言ってないし)
頬が熱くて、ぱたぱたと手で仰いだ。
そんなエファに微笑みを向けて、レオナルトは涼しい顔で言葉を続ける。
「王都についたあとですが、着替えを済ませていただき、そのあと神下に会っていただきます」
「…………へ!?」
これまでの話題がすっ飛ぶような発言に、エファは思わず腰を浮かせた。整備された馬車道を走っているためそんなに揺れないが、勢い余って天井のでっぱりで頭をぶつけてしまう。
「い、痛」
「見せてください……ああ、大丈夫そうですね。そんなにひどくぶつけたわけではなさそうですし。……痛いですか?」
「だ、大丈夫。それより、神下に会うって、それ本気?」
「本気も本気です。そのためにあなたを」
はっとしたように、レオナルトは言葉を途切れさせた。目が泳ぎ、口をきつく結ぶ。
(……なにかあるの?)
訝る視線を向けたが、レオナルトはエファの疑心に気づかないふりをして、言葉を続けた。
「神下はとてもお優しいかたなので、緊張しなくても大丈夫ですよ。ものすっごい無礼を働かない限り、死刑なんてことはありえませんから」
「し、死刑!?」
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