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いきなり出てきた物騒な言葉に、さっと青くなる。
だが、よくよく考えなくても、神王はこの国の王であり神だ。不敬を働けば、死罪だってありえるだろう。
「そ、そう。気をつける」
ちょこんと椅子のうえで小さくなるエファに、レオナルトが手を伸ばしてきて――頭を撫でようとした寸前で、戸惑うように手を握り締める。
俯いているエファが気づかないうちに、その手を引っ込めた。
*
旅のあいだは孤児院で着ていた灰色のドレスを使っていたが、ちょうど太陽が真上に登るお昼頃、王城につくなりわらわらと集まってきた女官たちに囲まれ、レオナルトとは別れて広い部屋に押し込められた。
「あ、あの」
「今からこちらの衣装に着替えていただきます。はい、はじめ!」
「はじめ? ……ぎゃ――っ」
きりりと目の鋭い年配の女官の合図とともに、エファを囲むように立っていた女官たちが一斉にエファのドレスを脱がしていく。あっという間に下着だけになったエファを見て、年配の女官が眉をひそめた。
「……下着も取り替えましょう」
「いやいや、これでいいですよ。あたし、これ気にいってるんです!」
もう何年も着古した、繕いだらけの下着だが、ここで脱がされることだけは避けたい。両手で胸を覆いながら必死で訴えたエファに、女官はため息をついて――。
「下着も取り替えてください。はい、はじめ!」
「また!?」
あっという間に下着もはぎ取られ、すっぽんぽんにされてしまう。しかし、脱がされたと同じくらい素早い動きで下着を、そしてドレスを着せられていく。
目が回るような速さに呆然としていたが、肌触りのよい生地に驚いて、思わずお腹や袖口などを無意味に引っ張ってみた。
「わ、ぁ」
薄い桃色のドレスは決して派手なものではないが、袖口と裾に凝った刺繍が施されている。胸元にはレース生地を重ねるようにあしらってあり、とても可愛いドレスだった。
(……完全に衣装に着せられている)
絶対似合ってない! と自分の身体を見下ろしていると、女官たちがどこからともなく持ってきた椅子に座らされた。今度は何をするんだ、と思っていると、後ろで一つに束ねていた髪をほどかれ、櫛で梳かれていく。
これまたあっという間に整えられた髪はふわりと肩口から胸へ垂らした上品さを醸す髪型となり、女官に差し出された鏡をのぞけば、十五歳とは思えない大人なエファがそこに映っていた。
化粧をしたので顔が変わるのは当然なのかもしれないが、まさかここまで印象が変わるとは思わずに素直に感嘆する。
(……あたし、だよね)
そんなありきたりな感想を心の中で呟いていると。
「とても美しいですわ、奥様」
「おおお、奥様!?」
初めて言われた呼び方に、思わず自分以外にもこの部屋にいるのではないかと思い、きょろきょろと辺りを見回した。けれど、女官お揃いのお仕着せを着た者以外に、ここにいるのはエファだけだ。
「聖伯爵様の奥方様でしょう?」
「そ、そうなる予定、ではあるけど」
途端に、きゃっという黄色い声がすぐ隣からあがった。
「やはりそうなのですね! レオナルト聖伯爵から直接お伺いしたわけではございませんが、女性を一人お連れするというお話を聞き、奥方様ではないかとお話してしておりましたの」
「ではでは奥方様も、神下にお会いになるのですね、羨ましいですわっ」
「……ええ、っと」
困ったように頬を掻けば、化粧が崩れるといって年配の女官に窘められた。彼女の視線はすぐに、エファからおしゃべりを続けている女官たちに向けられる。
「あなたたち、そのようにはしたないおしゃべりはお止めなさい。エファ様、申し訳ありません。みな、あなたを羨んでいるのです。他意はございませんので、お許しくださいませ」
「レオナルト様の妻になることが、羨ましいの?」
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