第二章

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 陽の光に照らされながら、風景に溶け込むがごとく神秘的な佇まいでそこにいたのは、二十歳ほどの青年だ。  地面につくほど長い白銀の髪は絹のように陽光で煌めき、細く長い指でぺらりと本のページをめくっている。着ている衣装は純白の詰襟服で、胸元と袖口を広げてゆったりとくつろいでいた。  エファはぷるぷると震えた。  泣くかと思ったが、涙は寸でのところで堪えた。 (この人が、神王神下)  紹介されたわけでもないのに、すぐにわかった。この建物が神王の住まいだと言われたのだから、ここでくつろいでいるのは神王だろう、という予測ではなく、身体の奥底から直感が訴えてくる。  この人が、この人こそが、神王ジルヴェスターだ。  身体中をびりびりと衝撃が走り、エファはふにゃりと力を抜いて地面に座り込んだ。 「……エファさん」  窘めるようなレオナルトの声音に、はじめてジルヴェスターが顔をあげた。  レオナルトも美しいと思ったが、それの比ではない美貌がレオナルトを、そしてエファを捕える。  ここからでも見える長い睫に覆われた瞳が、優しく微笑んだ。 「いらっしゃい、レオナルト。その子が、例の娘かな……?」 (はわわわわわわ、声もめっちゃんこ綺麗!)  にじみ出てきた感涙を指でぬぐい、エファは一瞬でも見逃してはならないとジルヴェスターの麗しい姿を視界に納め続けた。  少し垂れた柔和な目は、もはや爆弾だ。相手の心を射止めるのに、数秒とかからないだろう。  実際にエファは、一瞬にしてジルヴェスターの虜になってしまった。 (女官たちが騒いでいたのも頷ける。こんなすごい人なら、誰だって会ってみたいよ)  とは言うものの、正直、なにがすごいのか具体的にはわからなかった。この世のものとは思えない美貌はさることながら、一挙一動に至る優雅さも、目を奪われる原因の一つだ。  けれど、レオナルトもそうだが、そんな人間はこの世に大勢いるだろう。貴族ともなれば美しい妻を娶る者も大勢いるので、身分が高ければ高いほど、美しい容姿をしていると聞いたこともある。  どうしてこんなにもジルヴェスターに惹かれるのか。  そう考えて、すぐに結論が出る。 (このかたが、神様だからだ)  この世に現存する、たった一つの宝。  それが、神王ジルヴェスターだった。 「もっと近くへおいで。顔をよく見せてほしい」  レオナルトに手を引かれ、エファはジルヴェスターの前に進み出た。緊張を超えたナニかのせいで変な汗をかきはじめたエファを見つめ、ジルヴェスターはふと目を眇めた。 「ふむ、あまり似てないね」  独り言のようなそれに、エファははっと我に返った。 (もしかして、落胆させた……?)  そんな小さなことが苦しくて、胸が苦しい。誰と比べての言葉なのかわからないが、この人の期待を裏切りたくなかった。似ていないという自分を殴りつけてやりたい衝動にかられる。  そんなエファの胸中を読み取ったのか、ジルヴェスターは苦笑した。 「ああ、ごめん。そんなつもりはないんだ。……レオナルト、少しだけ席を外してもらえないかな」 (えっ、ふ、二人きり!?)  エファが動揺すると同時に弾かれたように顔をあげたレオナルトは、大きく目を見張っていた。  くすくす、とジルヴェスターの軽やかな笑い声が響く。 「そんなに驚かなくても、取って食べたりしないよ。安心して」 「……し、失礼いたしました。では、失礼いたします」 「うん。話が終わったら呼ぶから、よろしくね」  レオナルトはあっさり踵を返し、歩いてきた石畳の道を戻って行った。 「さて、改めてお礼を言うよ。遠路はるばる来てくれてありがとう。レオナルトからは、どこまで聞いているのかな?」 「……聞いて、る、とは、なにを、ですか」  ジルヴェスターが、目を瞬いた。そんな些細な仕草が、とても愛おしく感じる。 「レオナルトと結婚したんだよね?」 「まだ、正式には結婚してません」
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