第二章

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 どうしてエファは、いきなりレオナルトに求婚されたのだろう。それについてたどり着いた理由に、エファは思わず声を張りあげてしまった。  話しを遮られたジルヴェスターは軽く目を見張ったが、エファの無礼を咎めることはなく、すぐに穏やかな笑みになる。 「そうだよ。きみを僕のもとに呼びたくて、レオナルトに頼んだんだ。妻にして連れてくるように、と」  すとん、と納得した。  神王の命令ならば、レオナルトが強引にエファを妻に望んだ理由にも説明がつく。なんのことはない、彼は自分の意志でエファを妻に望んだのではなく、そうせねばならなかったのだ。  そこに、レオナルトに対する怒りはなかった。一目惚れ発言について言及した時に、彼はエファをジルヴェスターと似ているからと告げたのだが、今思えばそれさえ嘘のような気がする。 (だって)  じぃ、とジルヴェスターを見つめた。  どこをどう見てもエファとジルヴェスターは似ていないし、そもそも似通う部分など一つもない。けれど、あのときレオナルトは嘘をついている様子ではなかった。彼は本気で、エファがジルヴェスターと似ていると言っていたように思う。 (……どういうことだろ)  思案顔になったエファに、ジルヴェスターが軽やかな笑い声をあげた。 「きみは、考えていることが顔に出るね」 「えっ、す、すみません」 「謝らなくていいよ。さっきも言ったけど、レオナルトがきみに惚れたと言ったのなら、それは嘘じゃない。きみはね、エファ。天使のなかでも、特別なんだ」  ジルヴェスターが美貌を惜しげもなく歪めて笑みを深めたかと思いきや、その顔が近づいてきて、額に柔らかなものが触れた。  額にキスをされたと理解するまで時間がかかり、彼がゆっくりと離れると同時に、顔が真っ赤になってしまう。 (なっ、なっ、なっ、なんで!?)  頬が熱くて慌てて自分の頬を隠そうとしたが、地面についたままの両手にジルヴェスターの手が添えられていることに改めて気づき、もはや恐慌状態に陥ってしまう。 「エファ」 「は、はいっ!」 「また明日も来てくれるね?」 「お、お呼びいただければ、いつだって来ます!」  さらりと退けられた手に少しの寂しさを覚えながらも、ぐっと拳を握りしめて力説をする。  それがおかしかったのか、ジルヴェスターは肩を揺らして笑いながら、「ありがとう」と綺麗な声で呟いた。  *  裾の長いマントを靡かせながら、貴族然とした態度でやってきた壮年の男は、厳しい面持で、本を読んでいたジルヴェスターの前に立った。  相変わらず眉間には皺をよせ、女子どもが見れば逃げ出してしまいそうな強面で見下ろしてくる。  長い白髪を頭上で一つに結い上げた彼は、ちらりとジルヴェスターが視線をあげると同時に、おもむろに口を開いた。 「陽天使が来たのか」 「来たよ。レオナルトが、連れてきてくれた」 「さっきそこですれ違った。……二十歳にしては、ずいぶんと幼く見えたが」 「おや、ゼップルは知らなかったっけ。陽天使はね、成人になるまでに、少し時間がかかるんだ。成長が遅いんだよ。とくに赤子の時間が長くてね」 「お前も、そうだったのか」  つと、目を眇めて剣呑な色を見せてやる。
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