第三章

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 ならば、もっと美しく叡智に長けた「あたし」のほうが、よかったんじゃないか。  そんなことを言っても、仕方がないのはわかっている。けれど、なんとなくレオナルトに申し訳なく思うのだ。  ジルヴェスターが探していた「天使」が、エファみたいな普通の少女でごめんなさい、と。 「……まぁ、孤児院暮らしが長いのであれば、わからなくもないですけどね」 「へ?」 「あなた、自分を卑下しているでしょう? もう少し、自信をもったらどうですか。あなたは十分すぎるほど、素敵ですよ」  レオナルトの顔が下りてきて、ジルヴェスターがキスしてくれたところに優しく唇をくっつけた。  彼の大きな手のひらが、エファの身体を抱きしめる。 「あなたは、私の妻です。もはやそれは、揺るぎないんですよ。どんな事情であれ、はじまりであれ、私はあなたを愛している。たしかに神下に似ているあなたに一目惚れしましたけど、それがなんです。なにがいけないんですか」 「……レオナルト様」 「私があなたを好きだということに、変わりはないでしょう」  ぽんぽんと優しく背中を叩かれて、力んでいた身体から力が抜けていく。知らないあいだに緊張していたようだ。  弛緩した身体を抱きとめて、レオナルトは益々強くエファを抱きしめた。 「疲れてるんですね。王都ベリランカにきてから、休憩なしで動いてきましたから。そうです、紅茶を煎れて差し上げましょう。紅茶には自信があるんです、よく神下にも煎れて差し上げるんですけど」  ということは、神下が飲んでいるお茶と同じものが飲めるということか。さすがに茶葉は違うだろうけど、同じ作り手の紅茶を飲めるだけでもすごい。  ぱっ、と顔をあげたエファは好奇と喜びから、満面の笑みを浮かべた。 「準備をしてきます。座って待っててください」 「ありがとう!」  にっこり笑顔を残し、レオナルトは部屋から出て行った。 (気を使われちゃった)  優しい人だ。  思えば、馬車の旅のあいだもレオナルトはエファをとても気にかけてくれていた。それがこそばゆくて気づかないふりをしてきたが、人から優しくされるのはとても嬉しい。  エファは孤児だ。孤児に対する周囲の目は、親のいる子どもに比べて、少しばかり風当りがきついところがある。  院長やマリア、同じ孤児たちとは仲良くやってきたが、孤児たちのなかでも年長のエファは頼られているところがあり、優しくされるというよりは、保母や家事全般の働き手としての役割を担っていた。  レオナルトが、初めてかもしれない。エファを優しく甘やかしてくれるのは。  すとん、と椅子に座って、ふと孤児院のことを思い出す。  今頃、皆は何をしているだろう。時間的には昼過ぎごろだろうから、幼い子どもたちは昼寝でもしているだろうか。平日なので、マリアは働きに出ていることだろう。  まだ半月だというのに、すでに孤児院が懐かしい。  ふと、ドアを叩く音がした。 (レオナルト様かな、早いな) 「はい、どうぞ」  返事を返すと勢いよくドアが開き、大輪の薔薇を抱えたフィリーネが入ってきた。 「結婚しましょう、エファさん!」 「わ、びっくりしたっ!!」 「見ましたわ、レオナルトが出ていくところを。ふふふ、二人きりの楽園へ旅立ちませんことっ」  つかつかと歩み寄ってきたフィリーネは香りのよい薔薇の花束を丸机に置くと、エファの手を掴んで強引に立たせた。  唖然とするエファを、フィリーネはひょいと抱き上げる。 「ぎゃ!」 「んふふ、かるぅーい」  そのまま一直線にベッドへ向かい、ゆっくりと下ろされた。すぐさまエファの身体を跨ぐように、フィリーネがのしかかってくる。  すぐ近くにフィリーネの顔が下りてきて、思わず身体をのけぞらせた。 「……え、えっと」
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